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『山田広野のサバイバル・ビーチ』山田広野監督インタビュー

山田広野監督写真  夏の海を満喫していたところをサメに襲われた3人の美女。からくも危機を逃れたものの、中年ライフセーバーとともに無人島に漂着してしまった! ときには対立しつつも力を合わせて困難に立ち向かう4人だが、予想を越えた事態が迫ろうとしていた…。果たして3人の美女とひとりの中年男は、危機を乗り越えサバイバルできるのか!?
 自作の映画に活弁をつける独自のスタイルで知られてきた山田広野監督の新作『山田広野のサバイバル・ビーチ』(以下『サバイバル・ビーチ』)は、なんと無人島を舞台とした山田監督初のトーキー長編映画。活弁にこだわってきた“活弁映画監督”に果たして何が起きたのか? 美声と名調子をそのままお届けできないのは残念ですが、2007年に向けた山田広野監督の企みを、どうぞお楽しみください。

山田広野(やまだ・ひろの)監督プロフィール

1998年より、自作の映画に活弁をつけるという独自のスタイルでの活動を開始。ユニークな作品と癒し系ボイスで“自作自演活弁映画監督”として注目を集める。以降、映画館やライブハウスなどさまざまな場所でイベントを開催し作品を発表するとともに、テレビ・ラジオ出演、雑誌の連載など多方面で活躍。監督作に『実験人形ダミー・オズマー』シリーズなど多数。また、TVドラマシリーズ「怪談 新耳袋」「恋する日曜日」に監督として参加し、シリーズの異色作となる活弁ドラマを手掛けている。

無理やりだったり荒唐無稽でも思いっきりやりたい

―― まず最初に、なぜ監督がトーキーに挑戦されたのか? ということをお聞きしたいと思います。

山田:たしかに今まで自作の活弁映画の上映というかたちで何年間か活動してまいりましたけども、もともと活弁映画が面白いと思ってやっていたので、セリフの入った映画を頑なに拒んでいたわけではなかったのです。今回は企画の段階から普通の声の入った映画でビーチものというお話だったので、それならばそれで撮ってみたいと、特に抵抗なくやった感じですね。

―― では、『サバイバル・ビーチ』は企画ができてから監督にお話があったんですか?

山田:そうなんです。ただ、最初の段階であったのは「ビーチもので、サバイバルもので、トーキーの長編」という、ものすごく根本的な部分だけだったものですから、ぼくが監督に決まってから企画を作っていった部分もあって、最初のシノプシス(あらすじ)の段階からぼくが作っています。

―― 最初の企画を見て、監督はどういう映画にしようと思いましたか?

山田:とにかく、むやみやたらに危機が訪れて、数秒おきにトラブル発生という風にできればと思いましたね。それが無理やりだったり荒唐無稽なものであってもいいだろうと思っていました。もともと無人島が舞台だという設定からして「荒唐無稽なことをやっちゃっていい」というゴーサインみたいなものだろうと思っていたので、そこは思いっきりやろうと思いましたね。

―― 作品を拝見して、1950年代のアメリカのB級映画みたいなテイストを感じました。

山田広野監督写真

山田:たしかに今回は向こうの50年代SF・モンスタームービーを意識しているというのはありますね。そういう作品っていちいち大袈裟なんですよね。出てくる宇宙人とかもかなりひどい出来だったりしますし、今の感覚で観ると笑うしかないようなものなんですけど、当時は大真面目にパニックものとしてやっていたんですよね。今回もそのくらいの意気でやっていいんじゃないのかなというのがあって、リアリズムよりも、ビックリさせたり、あきれ返るくらいのところまで持っていっちゃえば、それでエンターテイメントとして成り立つのじゃないかと思っていたんです。

―― そういうSF・モンスタームービーのテイストは、監督の今までの作品よりも強く出ている印象を受けました。

山田:それはやはり設定によるところが大きいと思うんですよ。さっきもお話ししましたけど「無人島で生き残っていく」という設定自体が、街なかで起こることを撮っている普段の状況とは全然違いますよね。完全に現実とかけ離れた物語を作っちゃっていいという環境でやらせてもらっているので、それは大きかったと思うんですね。セリフにしても、どんなモンスターが現われたとしても大真面目に怖がったり叫び声を上げたりしなきゃいけないわけで、それを活弁ではなく声が入っているトーキーという形でやることで、より可笑しさも出るんですよね。大真面目にやってこそ可笑しいってところもあるので、そういうところは影響あったと思いますね。

―― ラストでは、ロジャー・コーマンの映画に出てきたモンスターに良く似た怪物も出てきたりしてますが(笑)。

山田:あれは、わかる人にはわかるだろうし、元の映画を知らなくてもわけのわからない怪物が出てきたってことで面白がってもらえると思うんです(笑)。今のハイテクノロジーを駆使したものではなくても、あの当時のモンスターが出てくるだけで面白いじゃないかということなんです。それは「リアリズムよりもビックリさせる」ということと、緩くではありますけど一貫している部分ではあるんですよ。

シナリオに書いていたキャラクターにピッタリな方が揃った

―― ロケはどこでおこなわれたんでしょうか?

山田:沖縄の伊江島っていう島で、ほんとに自然の宝庫でしたね。沖縄の中でもそんなに映画の撮影とかは入ったことないところだったので、まだ多くの方が観たことないきれいな島なんですよ。そういう意味でも、あの場所を使わせてもらえたこと自体が、無人島という設定の映画を撮る上ですごく力になったと思いますね。でも、撮影の1ヶ月くらい前にロケハンに行ったんですけど、あたりをつけていたところが実際に撮影に行ったら時間によって水没していたりするんですよ。それで場所を変更しなくちゃいけなかったりしたところはありましたけどね(笑)。

―― 撮影期間はどのくらいだったんですか?

山田:約10日間ですね。

―― 監督は10日間にわたるロケ撮影というのは初めてですか?

山田:初めてでしたけど、やりやすかったですね。ただ、予想以上に暑いところでしたし、陽射しを避ける逃げ場がない場所だったので、ぼくが熱中症にかかったこともあったんです。でもその日の撮影を休むわけにはいかないので、点滴を打ってまた撮るみたいな感じだったんですけど、悲壮感みたいなものはなかったですね。土地柄なのかもしれないですけど、開放的できれいな場所でしたし、民宿みたいなところにスタッフ、キャスト全員で泊まって合宿みたいな状態でやっていたんです。そこのご飯もおいしかったし、ロケ自体は楽しかったという感じがしますね。まあ、それは今となってはということなのかもしれませんね。ぼくは性格的に「喉元過ぎれば」というところがあるので(笑)。

―― かなりの部分が美女3人と男ひとりだけで進行していきますが、その設定はどの段階で決まったんでしょうか?

山田:もともと美女中心にという話だったので、ごく初期の段階から男はひとりくらいでいいだろうと思っていたんです(笑)。それで、美女3人を相手にすると、典型的な二枚目では太刀打ちできないと思ったんですよ。それよりもエグさで圧倒できるような人物の方がいいだろうということで、男はホリケン。さんしかないだろうという風に思っていました。

―― 3人の美女を演じたキャストについてひとりずつお聞きしたいのですが、まずアマンダ役の西島未智さんは?

劇中スチール

『サバイバル・ビーチ』より。左からあいか瞬さん、フランソワーズ広田さん、西島未智さん、ホリケン。さん

山田:西島さんは、役者としていろんなことに挑戦したいというチャレンジ精神旺盛な方だと聞いていたんです。やっぱり、10日間も水着姿で外で撮影していると日にも焼けますし、日焼けの跡も付いてしまうのでいろんな影響って出てくると思うんですよ。そういう環境でもやるというのも役者さんとしてのチャレンジ精神なんでしょうし、内容に関しても、荒唐無稽な笑いを追及するような部分について、実際にお会いしてお話をしたときに「ぜひそういうのをやりたい」と言ってくれたんです。だから、その段階で迷いなくこの方でと思いました。きわどいシーンもあって、それは西島さんにとっても初の体験だったんですけど、それもチャレンジ精神で取り組んでくれたんですね。むしろそのシーンではこっち側にも緊張感がありました。

―― イザベル役のあいか瞬さんの印象は?

山田:あいかさんは、すごいセクシーな人が来たなと思いましたね(笑)。醸し出す雰囲気も妖艶なものがあったので、相当力を持っているなと思いました。やはり、やっていただいた役がほんとにセクシーダイナマイトという役だったので、迷うことなくあいかさんでしょうということになりました。やっぱり、実際に撮影の段階でも、演出であるぼく自身がセクシーなポーズとか仕草についてはあまり細かくは指示できなかったんです。だから、既にそういったテクニックを持っているあいかさんがかなり力を発揮してくれたなと思っています。観ている方にキャラクターを認知させていくのにはそういう細かい描写が重要だったりするので、そこにおいてはだいぶあいかさんに助けられた部分はあると思うんですね。

―― ジェーン役のフランソワーズ広田さんについては?

山田:フランソワーズさんはもう経歴がすごくて、格闘技経験がバリバリで、ものすごくきれいなラインでかかと落としができたんですよ(笑)。もともとシナリオにホリケン。さん演じるホリを叩きのめすというシーンがあったので、そのきれいなかかと落としのラインを映画の中に焼き付けたくなって、ジェーン役はぜひこの人にと思いました。やっぱり、フランソワーズさんも、あいかさんも、西島さんも、受ける印象とか持っている雰囲気はみなさん三者三様で違いながら、シナリオに書いていたキャラクターにピッタリな方が揃ったというのは大きいですね。なにが大きいかというと、無理やり作り上げるものじゃなくてすむので、ぼくがあんまり苦労せずにすんだのです(笑)。

―― ちなみに、美女3人のキャスティングが決まったときに、ライフセーバー役のホリケン。さんの反応はどんなでした?

山田:なにか嬉しさを押し殺しているような感じでしたね。ワクワクしきっていたと思うんですけど、大ハシャギせずに密かに燃え上がっているというのは感じました(笑)。

―― 監督が熱射病で倒れてしまったというお話が先ほどありましたが、俳優さんたちはそういう面でのご苦労はなかったんでしょうか?

山田:まず、日に焼けちゃうと場面の繋がりの面でまずかったりもするので、それに気をつけなければならなかったですね。一方で撮影の最初にいきなり大雨に見舞われてですね、雨が降ると気温もかなり下がるんですよね。思いがけず寒い状況になって、役者さんはずっと水着なので大変だったと思います。それから、海と砂浜だけでなくジャングルのシーンもあるので、ジャングルを水着で歩くと蚊の襲来というのがありましてですね、虫除けをいくらやっても防ぎきれないほどの害虫の宝庫だったりするんですよ。その中に飛び込んでいかなければならないですし、ただ暑いだけでも体力を使うのに、それに加えてセリフを喋り、ときにはアクションをしてというのはご苦労があったんじゃないかと思いますね。

―― もう気候とか生き物は熱帯ですね。

山田:そうなんですよ。毒蛇まで出てきましたしね(笑)。撮影中にアマンダ(西島未智さん)が我々スタッフの近くで蠢いている毒蛇を発見したことがあって、騒然としたんですよ。なにかあったら取り返しがつかないですから、キャスト、スタッフ全員が震え上がった瞬間でしたね。向こうが襲ってくる体勢じゃなかったのが運が良かったんですけど、もう追い払うことすらできずに、立ち去ってくれるのを待つだけみたいな感じでした。そういうのは多かったですね。夜になると巨大なゴキブリが現われたりとか(笑)。ですから、突然の雨。それが上がれば灼熱。虫の襲来。そして蛇の登場。最後にゴキブリと(笑)。それで大きなトラブルにならなかったのは幸いなんですけど、ぼくが倒れたのも含めて撮影自体がサバイバルの様相を呈していたのは事実ですね(笑)。

むやみやたらと活動や表現の場を広げたい

―― 今回の映画では一部3D映像になっている部分がありますが、3Dを取り入れた理由はなんだったのでしょうか?

山田:過去に例がないようなバカバカしいくらいのことをやろうと思ったんです。それで、一点豪華主義で3Dというものがあるじゃないかと。一点豪華主義の位置付けがおかしいんじゃないかという方もいらっしゃると思うんですけど、最後の最後まで荒唐無稽な笑いというのを貫きたくてやってみたっていう感じですね。

―― 劇場で3D用のメガネを配布するというのは、かなり手間のかかる挑戦ですよね(笑)。

山田:やっぱりそれは、一見くだらないことでも本気でやったほうが面白いということの現われだと思うんですよね。上映でありながらどこかイベント性を持たせたいというところと、やるんだったら驚かせたいというところですね。予想外な形が面白いんじゃないかということで考えたんですけど、それがそのまんま実現したことがぼくも驚きです(笑)。

―― さらに続編の製作も予感させていますが、実際に予定はあるのでしょうか?

山田:ぼくは作る気満々で、もっともっとパワーアップしていくつもりなんですけど、この映画の上映の反応次第というところもあるんですよね。みなさんがどこまでくだらない…いや、どこまで可笑しなものをご覧になりたいと思うかというところに関わってくるので、ぼくとしてはそこに期待したいところという感じですね。せっかくですから、続編をやるなら全編3Dでやるという、そのくらいの意気込みでやれたら面白いんじゃないかと思います。勝手に言っていますけどね(笑)。

―― 監督の今までの作品で、同じ映像にふた通りの活弁を付けて全然違うお話にするのが何作かありますよね。あれって、面白いだけではなくて「目で見ているものの意味って実は曖昧なんだよ」という、かなり怖いところを指摘されているように思うんですよ。

山田:実際に怖いものだと思うんですよ。ぼくはどこかでそれに気づいて、幼い頃から目で見る映像に対して“信じきる”ってことをやめたんですよね。映像って、ほんとに「これはこうだよ」と言葉で言ってしまうことによって意味がだいぶ変わってしまうものなんですね。みなさん、映画を観るときというのは意外と無防備に観ているものなので、そこに対してちょっとショックを与えてみたいというのはありますね(笑)。

―― そう考えると、今回のトーキーや3Dという試みもなにか裏に別の怖い意図が隠されているのではと思うところもあるのですが?

山田広野監督写真

目指すのは映画の未来(?)

山田:いやいや、普通に観ていただいて充分に楽しめるものだと思います(笑)。ただ、油断大敵とは思っていますので、無防備で油断しきって観ていただきたいんですけど、こちらから「いろいろ仕掛けますよ」という点は随所にあるはずです(笑)。

―― 監督にとって新しい試みをされた『サバイバル・ビーチ』が2007年の年明けを飾るということで、2007年の山田広野監督がどういう方向に向かうのかが気になるところです。

山田:一見して「こういう方向だろう」ってことがわからないぐらいまでに表現や活動の場が広がっていくことを望んでいます。今回もトーキーという新しいことに挑戦しているんですけど、それ以外にも『サバイバル・ビーチ』の公開をきっかけとして、なにか広がっていくこともあると思うんですよ。そういうことも受け入れる準備をしながら、むやみやたらと活動や表現自体を広げたいと思っています。そういう意味では、自分にとっての新しい試みが盛りだくさんのこの作品を2007年初頭からやれるというのは幸先いいなと思っております。

―― 今までの作品が活弁で、今回はトーキーになってと、ちょうど映画の歴史に沿っていますね。

山田:そうなんですよ(笑)。大上段に構えますが、2007年の目標として、100年以上ある映画の歴史を辿りながら、お客さまと一緒に映画の未来に行ければいいなと思っております。

(2006年11月21日/なかのZEROホールにて収録)

劇中スチール

山田広野のサバイバル・ビーチ

  • 監督・脚本:山田広野
  • 出演:西島未智、あいか瞬、フランスワーズ広田、ホリケン。 ほか

2007年1月6日(土)よりポレポレ東中野にてレイトショー

『山田広野のサバイバル・ビーチ』の詳しい作品情報はこちら!

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