『白日夢』西条美咲さんインタビュー
官能の世界を描いた昭和の文豪・谷崎潤一郎の戯曲を武智鉄二監督が映画化した『白日夢』は、1981年の公開時、その大胆な性描写が話題となり、日本全国にセンセーションを巻き起こしました。そして、成人指定映画としては異例のヒットを記録するにいたったのです。
それから28年。武智監督が1981年版を含めて3度にわたって映画化した作品が、新たなスタッフ・キャストによって21世紀に蘇ります。脚本には瀬々敬久監督作の脚本などを手がける井土紀州さん、監督は現代のピンク映画界の誇る俊英・いまおかしんじ監督と1981年版の主演女優でもある愛染恭子監督のふたりが共同でつとめ、現在最高のスタッフでの『白日夢』が実現しました。
そして、かつて愛染監督が演じたヒロイン・千枝子役に抜擢されたのは、『白日夢』が初主演となる西条美咲さん。映画初主演とは思えない大胆な演技にも挑戦し、愛染監督の精神を受け継いだかのように“女の魔性”を全身で表現しています。
魔性のヒロインを見事に演じ、新たなスターの登場を予感させる新人・西条さんにお話をうかがいました。
西条美咲(さいじょう・みさき)さんプロフィール
1986年生まれ、京都府出身。幼いころから女優を目指し、2009年に『白日夢』のヒロイン・千枝子役に抜擢されて映画初主演を果たす。同年7月には舞台劇「新宿ミッドナイトベイビー」で舞台デビューにして主演をつとめ(いしだ壱成さんとのダブル主演)、その大胆な演技が注目を集めた。今後は映画版『新宿ミッドナイトベイビー』の主演が決定しているほか、舞台、映画で主役クラスでの出演予定が控えている。
「自分もいろんな役を演じてみたいなと思った」
―― 女優さんというお仕事を目指されるきっかけはなんだったのでしょうか?
西条:私は小学校低学年のときに引越しをして転校をしたんですけど、そのときなかなか新しい学校に馴染めなかったんです。それで、家に帰ってテレビとか映画を観るのがすごい楽しみで、それが生活の中で一番くつろいでいられる時間だったんです。テレビや映画に出ている人たちの笑顔に元気づけられたり、役に自分の気持ちを重ねたりして勇気づけられていたので、自分もそういう側に回っていろんな役を演じてみたいなと思ったのがきっかけです。
―― 女優さんになるのを具体的な目標とされたのはいつごろですか?
西条:女優さんになるぞって決めたのが小学校3、4年くらいで、小学校の高学年くらいから「そのためにはどうすればいいんだろう?」ということを考えていたんです。それで「じゃあ演技の勉強をしよう」と思って、中学校に入ってから学校で演劇部に入ったのと、児童タレント養成所のようなところに入ったんです。そこは学校のようにレッスンに通うところで、その養成所には2年半通って卒業しました。
そのあと、なにか特技がないといけないんじゃないかと思ったんです。オーディションを受けるときには応募用紙に必ず特技を書く欄があるんですよ。それで自分の趣味や特技ってなんだろうって考えはじめて、なにか自信を持って特技として書けるものがないかなと思って、語学を勉強しようと思ったんです。それで、英語も好きだったんですけど英語だとちょっと普通かなと思ったので、一番近い外国の韓国語を学ぼうと決めて、海外留学をしたんです。
―― すごい行動力ですね。
西条:はい、そのときはまだ韓国の文化が日本でブームになる前だったんですけど、中学校の英語の授業で「世界の友達と文通をしよう」という授業があって、たまたま韓国の友達と文通をしていたんです。それで韓国の文化って面白いなと思っていたこともあったので、韓国に決めました。韓国では1年間勉強をして、日本に戻ってきてからはアルバイトとかをしながらオーディションを受けたりして、二十歳になって東京に出てきました。
―― 韓国での経験が役立っていると感じるところってありますか?
西条:韓国の人ってパワフルなんですよ、特に女の人が。アジュンマ(オバチャン)はちょっとおせっかいなところもあるんですけど、言いたいことをパーンって言っちゃうような元気な明るさを持っていてので、そういう根本的な「明るく生きていこう」みたいなところは見習いたいなと思っています(笑)。
「千枝子は強いパワーを持っている女性だと思います」
―― 『白日夢』は、以前にも映画化されてセンセーショナルな話題を呼んだ作品ですが、西条さんはもちろん当時のことはご存じないですよね。当時の話を聞いてどう思われましたか?
西条:すごかったんだなって(笑)。そういうすごい映画だと、やっぱりイメージが強いだろうと思ったんです。リメイクとか続編をやるときに前作を演じた方のイメージが強くて、どうしても比較されて「よくない」といわれることもあると思ったんですね。そこはちょっと心配になりました。
―― 以前の『白日夢』はご覧になりましたか?
西条:はい、1981年のをDVDで観せていただいて、不思議な映画だと思いました。なんか、現実じゃなくて夢の世界でモワーッとしている感じで、ストーリーがわかりやすい映画ではなかったんですけど、愛染恭子さんが演じた千枝子を目で追って観ていて、すごく幻想的できれいだなと思いました。
―― その1981年版の主演の愛染恭子さんが、今回はいまおかしんじ監督と一緒に共同監督をつとめられていますが、おふたりの監督はどういう分担になっていたのでしょうか?
西条:男性がメインのシーンをいまおか監督が監督して、女性がメインのシーンは愛染監督がやることになっていたので、私のシーンはほとんど愛染監督が撮ってくださっていたんです。ですから、愛染監督には撮影に入る前に2、3回演技指導をしていただきました。愛染監督は女性なので、やっぱりロマンティックな感じで、きれいに見えるようにというのがありましたし、同じ役を演じるということで、細かなところまでいろいろ教えていただきました。
―― 今回の『白日夢』も、やはりちょっと不思議な感じの作品となっていますが、脚本を読んだときはどう思われましたか?
『白日夢』より。警官の倉橋は偶然出会った千枝子の魔性に魅了されていく……
西条:脚本を初めて読んだときは、千枝子がすごく大人びて見えたんです。いろいろな男性と寝たり、年上の男性を好きになってずっと追い求めて、友達と争ってでも手に入れようとする。そこまでの愛ってどういうものなのかがわからなくて、けっこう考え込みました。小説とかでもすぐ感情移入しやすいキャラクターってあるじゃないですか。でも『白日夢』の千枝子は、ほんとに心の奥底のほうで考えていることがひとつひとつが積み重なって行動に出ているので、そのひとつひとつの裏付けを考えていく作業が難しくて、そこはちょっと苦労しました。実際に演じていて「ここはこうなのかな、でもこうなのかな」と迷うこともあって、そういうときは愛染監督に相談をしました。
―― 実際に演じてみて、千枝子ってどんな女性だと感じましたか?
西条:周りから見ると地味でパッとしないし、キラッと輝いてもいなくて、普通に道を歩いていたら全然目立たないんだけど、1度内面を見てしまうと、平凡なルックスからは想像がつかないくらい魅力的で、すごく強いパワーを持っている女性だと思います。
―― そういう女性像に憧れは持ちますか?
西条:強いという意味では憧れますね。魔性的な部分とか。
―― では、もし西条さんの身近に千枝子のような女性がいたとしたらどうでしょうか?
西条:フフ、友達としてはちょっと付きあいにくいかもしれないですね(笑)。でも、千枝子はたぶん女の子の友達にはそういう部分を一切見せないと思うので、もしかしたら私の友達の中にもそういう子がいるんじゃないかと思います(笑)。
「経験を積んで、いろいろな面に活かしていけたらなと思っています」
―― 千枝子というのは、男性から魅力的に見えなくてはならないキャラクターだと思いますが、その部分で苦労はありませんでしたか?
西条:苦労というよりも、そこについては愛染監督がそのつどそのつど「目線はこのほうがいいのよ」とか「手の仕草はこういう感じのほうがいいんじゃないかしら」とか、手取り足取り教えていただいた感じですね。
―― 濡れ場もたくさんありますけど、濡れ場を演じるときに意識された部分というのはありますか?
西条:濡れ場だけ特別にどうこうしようとしていたわけではないですね。細かい仕草とかは事前に愛染監督から教えていただたいて、現場でも「脚の先まで力が入るのよ」とか細かく教えていただいていたんです。感情的な部分は、物語のままの感情で、すんなりといけたんじゃないかな。
―― 濡れ場を演じることについて迷いみたいなのはなかったのでしょうか?
西条:そういうのはなかったですね。ずっと女優になりたいと思っていたので、ためらいはなかったです。
―― 個人的にすごくお聞きしたいことがあって、メインのスチールで使われている、大坂俊介さんと抱きあっている写真がありますよね(※この記事の下のほうをご覧ください)。あのスチールの西条さんの眼がほんとに「魔性」って感じがしたんですけど、どんな気持ちであの表情ができたんでしょうか?
西条:どうだったんだろう……フフ(笑)。あのスチールは大坂さんとのシーンを撮って、そのすぐあとに撮ったんです。だから、そのときの感情がそのまま入っているんじゃないかと思います。
―― 『白日夢』のあとで舞台(2009年7月上演の「新宿ミッドナイトベイビー」)にも主演されていますが、今後も映画や舞台を問わずお仕事をされていくのでしょうか?
西条:そうですね、映画で初めて主演をやらせていただいて、ほんとに経験がまだまだ足りないなと感じているんです。舞台は舞台でほんとに学ぶことが多くて楽しかったですし、映画は映画でもっともっとできると思っていますし、なんにしても経験を積んで、すべてをいろいろな面に活かしていけたらなと思っています。
―― 「こういう役をやってみたい」という役はありますか?
西条:純愛ものをやってみたいですね。今回の『白日夢』も、この前やった舞台も“実らない恋”というか、進んでいっていい恋じゃないお話だったんです。だから、純愛として育んでいけるような、愛を作っていけるような役をやってみたいです。
―― 純愛もので好きな作品というと?
西条:そうですね……、そう言われると、好きな作品は純愛ものが少ないような気がします(笑)。『ラスト、コーション』(2007年:中国・米/アン・リー監督)とか、あとはファンタジー系が好きなので『アルゼンチンババア』(2007年/長尾直樹監督)はすごくよかったし、『ベロニカは死ぬことにした』(2005年/堀江慶監督)のような作品がけっこう好きです。純愛ものではないのかな、フフ(笑)。
―― では、目標とする女優像というのを聞かせてください。
西条:自分らしさもありながら、チャーミングで魔性の気もあるような感じのタイプの女優さんが好きなんです。だから、そういうタイプに近づきたいですね。
―― 最後に、『白日夢』をご覧になる方へ「ここを観てほしい」というメッセージをお願いします。
西条:初出演で初主演で、これからも私の中で大切な作品になっていくと思います。頑張った作品ですし、濡れ場に関して言えば、すごくきれいに撮ってもらっていて、特に海辺での大坂俊介さんとのシーンはすごく幻想的できれいだと思うので、そういう部分を観てほしいです。
(2009年8月26日/アートポートにて収録)