父は、町を「荒らした」という悪評のある不動産ブローカー。娘は、父親が「荒らした」町に愛着を持つ高校生。映画『ひかりのたび』は、ひと組の父娘の姿を軸に、地方都市で生きる人々とその“土地”が生み出すものを描いていきます。
主人公の高校生・植田奈々を演じたのは、長編映画初主演となる新星・志田彩良さん。現代美術のフィールドでも活躍する澤田サンダー監督が脚本も手がけたこの作品で、志田さんは奈々が抱く父と町への複雑な想いを巧みに表現しています。
モノクロームの映像と特徴的な音楽が作り上げる『ひかりのたび』の独特の空気の中で、その魅力を存分に発揮した志田さん。今後の活躍も期待の18歳にお話をうかがいました。
志田彩良(しだ・さら)さんプロフィール
1999年生まれ、神奈川県出身。2013年よりティーン向けファッション誌「ピチレモン」専属モデルとして活動。2014年には短編映画『サルビア』(西中拓史監督)で主演をつとめる。数本の短編映画出演を経て『ひかりのたび』で長編映画初主演。そのほか、ドラマやCMなどでも活躍中。
出演作に短編映画『わたしのまち』(主演:2015年/丸山隆監督)、『キスは命がけ!』(2016年/ごとうたつや監督)、ドラマ「ホラー・アクシデンタル2」(第5話出演:2016年・フジテレビオンデマンド)など。
「お父さんの一番の理解者であるというのを意識していました」
―― まず『ひかりのたび』で主演に決まったときのお気持ちからうかがわせてください。
志田:素直にすごく嬉しかったですね。内容がすごく難しかったので、もちろん不安とかもあったんですけど、でもそれ以上に楽しみだったりとか、嬉しいというプラスな気持ちのほうが大きかったです。
―― 「内容が難しい」というお話もありましたが、この『ひかりのたび』は大きな事件が起こるような話ではなくて、わりと淡々と出来事を描くような、少し不思議な雰囲気の作品ですよね。そういう雰囲気はどう思われましたか?
志田:私は、こういう日常的で大きな事件が起きるというより現実でもありそうな作品を普段から観たりするんです。なので、こういう作品はすごく好きですね。でも内容を理解するのにはけっこう時間がかかりました(笑)。
―― では、内容について澤田サンダー監督とけっこうお話をされたのでしょうか?
『ひかりのたび』より。志田彩良さん演じる主人公・奈々と、高川裕也さんが演じる奈々の父・登
志田:そうですね、何度か監督とお話をさせていただきました。高川(裕也)さんが演じる植田(※志田さん演じる奈々の父)のお仕事についても、私は不動産ブローカーというお仕事についてもまったく知らなかったんです。でも、監督は実際にそういうお仕事をされていたので、そのときのお話だったりを聞かせてもらって、少しずつ理解していきました。
―― 志田さんが演じられた植田奈々という主人公については、どんな子だと感じられましたか?
志田:第一印象はすごく強い子だなって思っていたんです。でも実はすごく繊細で、相手に言われたことだったりとかを感じやすい子なのかなというふうに思いました。たとえば同級生の狩野くんと話すシーンとかも、狩野くんから言われるひと言ひと言がなんか奈々ちゃんに刺さるというか……。なんか、そういう繊細な子なんだなと思いました。
―― 奈々について、監督から「こういう子だよ」とか「こういうことを意識してほしい」みたいなお話はありましたか?
志田:監督からは「お父さんのことを一番に考えている女の子」というのをまず最初に言われていたので、撮影前は、台本を読んだり、監督とお話をしていく中でも、お父さんのことは一番に考えていました。
―― その奈々のお父さんへの気持ちは、どんな感じだと考えていました?
志田:なんかほっとけないというか、お父さんなんですけど、なんだろう……「守ってあげたい」というか、たぶん奈々ちゃんは「自分しかお父さんを守ってあげられる人はいない」って思っていたと思うので、一番そばにいる存在として、お父さんの一番の理解者であるというのを意識していました。
「きれいな景色の中を自転車で疾走できるのは気持ちよかったです」
―― 奈々は引っ越しや転校が多かったという設定ですが、志田さんご自身は引っ越しや転校のご経験はありますか?
志田:引っ越しはあるんですけど、すぐ近くへの引っ越しだったので環境はあんまり変わらなかったですし、まだ私が赤ちゃんのころなので、あまり記憶にないんです(笑)。
―― そうすると、奈々の転校が多くて自分の拠り所がないというような感覚はすぐに理解できましたか?
志田:やっぱり難しかったです。私はけっこう家族だったり友達だったりに恵まれているなと自分では思っているので、奈々の故郷がなくて地元の友達というのもあまりいなくてというのは「どういう感じなのかな?」ってすごく考えました。
―― その奈々が暮らす町は、群馬県の中之条でロケをされていますが、中之条の印象はいかがでした?
志田:この撮影の1年前の一昨年にも、ほかの映画の撮影で群馬に行かせていただいていたんです(※桐生市で撮影された主演短編『わたしのまち』)。そのときもほんとうに景色がきれいで、地元の方々もあたたかくてと思っていたので、2年連続で群馬県に行けたということがまず嬉しかったです。中之条はほんとうにすごく景色がきれいで、ただ、暑さも都内とはぜんぜん違う暑さで、私はずっとローファーを履いていたんですけど、ローファーの中がジリジリするくらいで(笑)。こんなに暑いんだってビックリしました。
―― 『ひかりのたび』は登場人物自体そんなに多くありませんが、奈々が会話をするのは、お父さんと、同級生の狩野くんと、バイトの先輩の倉石さんの3人と、あと教室の場面が少しあるくらいですね。共演相手の方が少ないというのは演じてみていかがでした?
志田:いままでも、まだあんまりたくさんの方と話すという役を演じたことがないので、少ない方としか一緒のシーンがないということに対しては、あまり違和感とかはありませんでした。でも、あまりほかの人と話さないからこそ、お父さんだったり、狩野くんだったり、倉石さんだったり、誰かと一緒にいられる時間がすごく嬉しかったです(笑)。
―― 会話のシーンでは、狩野くんと下校するところで3分以上の長回しのカットがありますね。
志田:あそこは、ほんとうにすごく印象に残っています。会話もそうなんですけど、撮影の少し前にちょっと雨が降ったりしたので、道路が乾くのを待ってから撮影したりとか、撮影した場所にいる時間がすごく長かったので、よく覚えています。
―― そのシーンのほかに、志田さんご自身が印象に残っているところがあれば教えてください。
志田:ひとりで自転車で爆走するシーンがあって、全力で自転車を漕いでいたのが印象に残っています。あのシーンはカメラも遠くから撮っていたので私の近くにはスタッフの方がひとりいてくださるだけで、きれいな景色の中を自転車で疾走できるのはすごく気持ちよかったです。
―― 今回はセリフが全部アフレコなんですよね。撮影のあとにもう一度声だけでお芝居をするというのはいかがでしたか?
志田:撮影をしてから1ヶ月とか2ヶ月くらい経ってからアフレコをしたので、撮影したときのその場の感情とか、相手の方がいない状況でそれを思い出してセリフを言うというのがすごく難しかったです。いまだにもう1回やりたいなって思うくらいで、自分では満足はできていないんです(笑)。でも、そのぎこちなさというか、それはそれであのときの私にしかできないものだったのかなと思っています。
「ほんとうに一生忘れることのない作品になりました」
―― 『ひかりのたび』の特徴として、モノクロの映像や独特な音楽がありますが、完成した作品をご覧になったときはどう感じられました?
志田:色も付いていなかったので、ほんとうに私が思っていたのとはぜんぜん違っていて、でも思っていた以上に映像もきれいで、すごく素敵な作品だなと思いました。
―― 志田さんが演じた奈々の特徴として、笑うシーンもほとんどないですし、感情をあまり出さないというところがあると思いますが、その部分は監督とお話されたのでしょうか?
志田:表情については「あんまり笑わない」というのは監督から言われていました。自分では、お父さんの前ではいつでも眉間にしわを寄せているというか、強がっているイメージだったんですけど、でも学校で友達と話すシーンだったり、狩野くんと一緒にいるシーンでは、笑わないんですけど、でもお父さんの前にいるときよりは柔らかい表情でいようというのは、ずっと意識していました。
―― その表情のお芝居について、完成した映画でご覧になっていかがでした?
志田:やっぱり、奈々ちゃんはずっと笑わないので、笑わないから最後まで観ていただいたときに印象にすごく残るものがあるんじゃないかなと思いましたし、最後は自分で見ていてもドキッとするところがありました。
―― 今回、初めての長編映画で主演をつとめられて感じたことはどんなことでしょう?
志田:初めての長編映画で初めての主演というのは人生で一度しかないので、ほんとうに一生忘れることのない作品になりました。
―― 今回の役を踏まえて、これから演じてみたい作品や役があれば教えてください。
志田:いままでは今回の『ひかりのたび』のように、あんまり笑わないというか、ちょっと暗い、翳のある役が多かったんので、もっと明るいコメディとかにも挑戦してみたいなって思います。自分がそういうコメディをしているのが想像つかないので(笑)、してみたいなと思います。
―― では最後に、記事を読まれている方に向けてメッセージをお願いします。
志田:『ひかりのたび』は、どの年代の方ご覧になっても、きっといろいろ感じていただける作品になっていると思います。モノクロというのもこの映画の魅力ですし、オールアフレコの映画というのも私自身、観たことがなかったですし、いまはあまりないと思うので、ぜひ、いろいろな方に観ていただきたいなと思っています。
取材時の志田彩良さんは『ひかりのたび』劇中とは違う雰囲気。これからもさまざまな表情を見せてくれそうです。まずは『ひかりのたび』での志田さんをぜひスクリーンでご覧ください。
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(2017年8月24日/都内にて収録)
ひかりのたび
- 監督・脚本:澤田サンダー
- 出演:志田彩良 高川裕也 山田真歩 浜田晃 ほか
2017年9月16日(土)より新宿K's cinema ほか全国順次公開