音楽とグラビアの双方で活躍する「いま一番“脱げる”シンガーソングライター」藤田恵名さん。主演作『EVIL IDOL SONG』で映画界にも鮮烈な印象を残した藤田さんが『WELCOME TO JAPAN 日の丸ランチボックス』で再び映画主演をつとめます。
藤田さんの楽曲「言えない事は歌の中」のミュージックビデオを映画化した『WELCOME TO JAPAN 日の丸ランチボックス』は、海外でも人気の西村喜廣監督がメガホンをとり、藤田さんが女殺し屋・キカを演じるバイオレンスアクション。
“藤田恵名×西村喜廣”という刺激的なふたりのタッグは、主人公のキカが弁当箱を武器に不良外国人を次々に葬っていくというかなり過激な作品を生み出しました。この危険なオモテナシ、藤田さん的にはどうなんですか!?
藤田恵名(ふじた・えな)さんプロフィール
福岡県出身。精力的なライブ活動やCDリリースなどシンガーソングライターとしての活動と並行してグラビア活動もおこない「いま一番“脱げる”シンガーソングライター」のキャッチコピーで注目を集める。ミス東スポ2014グランプリやミスiD2017を獲得しバラエティー番組に出演するなど多方面で活躍中。2016年に『EVIL IDOL SONG』(大畑創監督)で映画初主演をつとめ、2017年には『血を吸う粘土』(梅沢壮一監督)に出演。主題歌を担当した映画も多い。ロックバンド・the pillowsの結成30周年記念映画『王様になれ』(2019年/オクイシュージ監督)には本人役で出演している
「キカという役を大事に演じようって思いました」
「最初は“ウソでしょ?”って思いました(笑)」
『WELCOME TO JAPAN 日の丸ランチボックス』の脚本を初めて読んだときの印象をこう話す藤田恵名さん。たしかに今回の作品は、世間と隔絶した寺で育てられた主人公の女殺し屋・キカが日本を訪れる不良外国人を殺していくという、藤田さんが驚くのも無理はない強烈なストーリーとなっています。
「だけど脚本を読んでいくうちに、キカの宿命というか、キカはほんとはすごい寂しい哀しい子なのかもしれないっていうふうに思いましたし、ありふれたラブストーリーとかじゃなくて、ヴィジュアルも含めてこの設定で女殺し屋でという役が自分に訪れることって、これを逃すときっとないだろうなって。だから、自分にしか演じられないキカという役を大事に演じようって思いました」
感情を表に出さず喋ることすらほとんどないキカとは違い、取材の際の藤田さんはつねにニコニコと笑顔を浮かべて口調も柔らか。真逆とも言えるキャラクターのキカを演じるにあたり、どのように役を作り上げていったのでしょう?
「もう、監督から顔がゆるんでるのは違うと言われていたので、いつもキリッとしていようと思ってはいたんですけど、普段がフニャフニャしているから(笑)。でも、それのスイッチの切り替わりみたいなのはそんなに大変じゃなくて、スタートとなったらキカに入り込めたんです。あとはやっぱり殺し屋の役なので、常に四方八方どこから狙われているかわからなくて気を張っているのを表現できるように“睨みをきかせる”のは特に気をつけました。目ぢからですね(笑)。それから、ほぼセリフがない役なので、表情でどれだけ訴えられるかみたいなことは自分なりに研究しました。このメイクをしているので、いろいろ大変でしたけれど(笑)」
『WELCOME TO JAPAN 日の丸ランチボックス』より。藤田恵名さんが演じる強烈なルックスの女殺し屋・キカ
その、白塗りの顔に赤く日の丸を描き髪の毛もガッチリと固めるというインパクト充分なキカのメイクは「仕上げるのがメチャクチャ大変で、グラビア活動にもすごく支障が出たんです(笑)」とのこと。
「肌が荒れたりとか、撮影の前は髪の毛の色が明るかったんですけど、それを黒髪にするかモヒカンにするかどっちがいいかって言われて(笑)。モヒカンは事務所NGだったので、じゃあ黒髪でってなって、1回ブリーチして黒髪にして、さらに髪の毛の上に乗せて固めているのって紙粘土なんですよ。本来は頭に乗せちゃダメな奴らしくて(笑)、それで髪がバリバリになってすごい傷んだり、顔に塗った赤いのも特殊なラメでたぶん肌にはあまりよくなかったりとか、あとはアクションシーンが多かったので単純にアザとかが全身にできたりで、そういう意味で体を張った感じですね」
藤田さんにとっては初挑戦となるアクションも今回の見どころのひとつですが、藤田さんはアクションを通して「体力はあるんですけど運動神経がないことをまざまざと思い知って(笑)」と笑います。
「なんでここでこう動いたあとにこうなのかとか、こう撮っているときはこう来るとか、みなさんアクションをやっているときにそこまで考えてやってるんだって驚いて。私は体が思うように動かなくって大変で、稽古はアクション監督の坂口茉琴さんの師匠の坂口拓さんの稽古場でやっていたので、参考に坂口拓さんの映像をムチャクチャたくさん見たんですけど、普通に再生していても早送りみたいなスピード感なので、参考にならずに終わりました(笑)。もう、今回のアクションシーンは誰かと闘うのばっかりだから、アクションをカッコよくできなくても必死で“コイツを殺したい”という気持ちがあればなんとかなるだろうって、そこは精神論でぶつかって(笑)」
さまざまな困難も多かったような『WELCOME TO JAPAN 日の丸ランチボックス』の撮影。しかし、藤田さんは笑顔でこう振り返ります。
「いましかできないことだと思って乗り切りました」
「尖った作品に出たことによって自分の許容範囲が広がった」
西村喜廣監督が海外でもカルトな人気を誇るだけに『WELCOME TO JAPAN 日の丸ランチボックス』は日本のみならず海外での展開も期待されるところ。藤田さんも「海外に呼んでいただけるなら行きたいですし、あわよくばそこでライブもできればなって」と、意欲は充分な様子です。
「私はこの前、初めて香港でライブをしたんですけど、言葉が通じなくてもパフォーマンスですごい盛り上がっているのを見ると、日本の音楽、作品ってけっこう愛されていて受け入れられるというのを体感したんです。私はこうして歌もお芝居もやらせていただいているので、欲深く抱き合わせで行けれたらなと思います」
ただ、作品内で描かれる思想がかなり過激だけに「映画の中で出てくる思想は1ミリも私の思想ではないというのを声を大にして言いたいです(笑)」と付け加えるのも忘れません。
「あくまで私は演じていたまでですと言いたいですし、監督の西村さんもどっかで“このままだとヤバイ”と思ったのかもしれないですね(笑)。ユーモアだったり“これは面白いものとして見てください”ってところがちょっと増えていって、バランスをとっていた気がしたので(笑)。だから深刻に捉えないでほしいって思います、海外の方も」
今回の『WELCOME TO JAPAN 日の丸ランチボックス』だけでなく、歌で人を殺すシンガーソングライターを主人公にした初主演作『EVIL IDOL SONG』(2016年/大畑創監督)、美術専門学校生たちを呪われた粘土が襲う『血を吸う粘土』(2017年/梅沢壮一監督)と、作品内で大量の死者が出る映画への出演が続いている藤田さん。「ほんとはホラー映画は大っ嫌いなんです(笑)」と笑いますが、激しい内容の作品への出演がシンガーソングライターとしての活動に影響を与えた部分もあるそうです。
「今回の作品もそうですけど、映画の中だから人を殴れるとか、殺してしまえるとか、現実世界では絶対に無理だけど映画の中ならできるっていうことを、歌にも置き換えられるようになってきたんです。当たり障りのない歌詞を書くんじゃなくて、歌になら乗せられることがあるし、歌になら乗せていいんだって。それは開き直りにも近いんですけど、こういう尖った作品に出たことによって“ここまで攻めていいんだ”っていう許容範囲がすごく広がって“なにをいままで怖がっていたんだろう”とも思うようになって。だから、そういう意味では自分の引き出しを広げられるきっかけになったなとは思いますね。でも、次はもう少しさわやかな映画に出たいなと思います。“誰も死ぬな!”って(笑)」
そうやって映画出演の経験を自分の糧にしてきた藤田さん。今回の『WELCOME TO JAPAN』では、どんなものを得たのでしょうか?
「キカはMIMIという女の子と出会ってMIMIのことを守ろうとするんですけど、私も撮影中は役じゃない感情というか、本心で“この子を守りたい”って思いながらMIMIに接していたんです。カッコいい女性って守られる女性じゃなくて、そういう強い女性になりたいなって思いましたし、そうやって歳を重ねていくのかなとも思いました。あと、けっこうキカが料理するところがあるんですけど、私はこんなにも料理ができないかってくらいできなくて(笑)、手元はスタッフの女の子が代わりにやってくれたくらいなので、もう少し強さと女性らしさを兼ね備えなくてはと思いましたね(笑)」
そして、これまで映画だけでなくミュージックビデオでも個性あふれる監督たちと仕事をしてきた藤田さんは、自身の楽曲「境界線」のミュージックビデオで、ついに初監督に挑みました。取材の時点ではまだ撮影前だった初監督ミュージックビデオに向けた意気込みを聞いてみました。
「自分の頭の中にあったものをミュージックビデオにするのは初めてなんです。監督にお任せで、監督が曲を聴いて“こういうふうに撮りたい”というのがミュージックビデオを作るときの答えかなと思っていたんですけど、過去のミュージックビデオも含めてあまりにも血が出すぎてて、私が怖い人みたいなイメージに歯止めが効かなくなってきて(笑)。だから、自分で監督したいと思わせてくれたきっかけは、今回の『WELCOME TO JAPAN』があったからですね(笑)。今度の『境界線』は監督補として井口昇監督に一緒にやってもらうんですけど、井口さんには私からオファーをしたので、それが叶って嬉しいです。私はゆうばり国際ファンタスティック映画祭で井口さんがプロデュースしたアイドルグループのノーメイクスさんと一緒になったことがあって、ノーメイクスさん主演の『キネマ純情』(2016年)の世界観がすごくいいなあと思ってたので、その監督の井口さんとタッグを組んでやれたらって。絶対にいい作品にしたいし、エキストラで参加してくれるファンのオジサンたちをカッコよく撮ることに専念できればと思ってますね(笑)。面白い作品になるはずです」
これからもさらに多彩で刺激的な活躍を見せてくれそうな藤田さん。最後に『WELCOME TO JAPAN 日の丸ランチボックス』の見どころをまとめてもらいました。
「この映画は、いろんな意味で衝撃とかインパクトの強い映画になっております。『いま一番“脱げる”シンガーソングライター』の藤田と世界に評価される尖りまくった西村喜廣監督の化学反応がすごく面白いことになっていますし、私はキカという役にすごくのめり込んでいたので、撮影が終わったあとも街を歩いている人がエキストラに見えたりして、しばらく映画が抜けなかったんです。それくらい私が真面目に向き合ったキカを、この映画を、ぜひとも観ていただければ嬉しいです」
(2019年8月7日/キングレコードにて収録)
WELCOME TO JAPAN 日の丸ランチボックス
- 監督・原案・編集・キャラクターデザイン:西村喜廣
- 出演:藤田恵名 屋敷紘子 サイボーグかおり 笹野鈴々音 鈴木希実 鳥居みゆき ほか
- 主題歌:藤田恵名「言えない事は歌の中」
「シッチェス映画祭ファンタスティック・セレクション 2019」にて上映
※10月11日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷、26日(土)よりシネマスコーレ、11月8日(金)よりシネ・リーブル梅田で開催