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『唐獅子仮面』光武蔵人監督インタビュー

 隕石の衝突により荒廃した未来の地球。生き残った人々は、隕石の影響で生まれた魔獣・アノロックの恐怖と独裁将軍の支配に怯えながら生きていた。緋色組の若き女組長・緋色牡丹は、獅子のマスクで素顔を隠し、唐獅子仮面として人々のため闘う!
 ロサンゼルスを拠点に活躍する鬼才・光武蔵人監督が、漫画界のレジェンド・永井豪先生が新たに生み出したスーパーヒロインを実写映画化! 全編アメリカ撮影の日本発セクシー・バイオレンス・アクション『唐獅子仮面』が誕生しました。
 永井豪作品へのオマージュ満載のこの娯楽巨編は、同時に制作時の社会状況を反映した強いメッセージ性も持つ作品となっています。終末感の漂う世界で唐獅子仮面が闘う相手は誰なのか! 光武監督にお話をうかがいました。

光武蔵人(みつたけ・くらんど)監督プロフィール

1973年生まれ、東京都出身。映画を学ぶため高校生でアメリカへと留学。カルフォルニア芸術大学映画学科大学院卒業後はアメリカでコーディネーターやディレクターなどで映像制作に携わり、2004年『モンスターズ』で長編監督デビュー。監督第2作『サムライ・アベンジャー/復讐剣 盲狼』(2009年)では自ら主演もつとめた。以降も『女体銃 ガン・ウーマン/GUN WOMAN』(2013年)、『KARATE KILL /カラテ・キル』(2016年)、『マニアック・ドライバー』(2021年)とジャンル映画のフィールドで監督作を送り出し人気を集めている。ロサンゼルス在住

東映ビデオさんの社内が、ちょっと騒然となりまして

―― 永井豪先生の作品は誰もがどこかで触れているくらいポピュラーなものだと思いますが、監督の永井先生作品との出会いはいつごろですか?

光武:最初はたぶん、小学生4、5年生くらいですね。ぼくは映画に目覚める前は漫画大好き少年で、雑誌の「コロコロコミック」を読んでいたんですよ。そうすると「ドラえもん」や「怪物くん」とかがある中に、永井豪先生の「鉄戦士ムサシ」という連載が始まったんです(1982年〜83年連載)。絵もほかのコロコロの漫画とは違っていて「なんだろうこれは」という驚きがありまして、永井先生の描かれるヒーローやヒロインにたちまち吸い込まれて読みはじめました。その漫画は悪い宇宙人に追われて地球に逃げてきた宇宙のお姫様がヒロインなんです。普段は普通の高校生として身を隠しているんですが、胸にお姫様の印のペンダントを付けていて、悪い宇宙人はその姫の印を探しているという理由付けでですね(笑)、ヒロインが体育の授業で跳び箱かなにかを跳ぶと、体育教師に化けた悪役が彼女の体育着のシャツを引っ張って引き裂くわけです(笑)。女性の胸をはっきり描写した絵を初めて見て、しかもイノセントなはずのコロコロコミックでしたから、かなり衝撃的で、興奮しましたね(笑)。そこから永井先生の作品を集めて貪るように読んだというのが、永井先生の作品との出会いですね。

―― そうして昔から読んできた永井豪先生の原案とキャラクターデザインで映画を監督することになった経緯は、どんなものだったのでしょう?

『唐獅子仮面』スチール

『唐獅子仮面』より。トリ・グリフィスさん演じる唐獅子仮面=緋色牡丹

光武:これが本当に運命の悪戯のような話で、ぼくは監督をした『KARATE KILL /カラテ・キル』(2016年)のすぐあとに、ある会社に声をかけていただいてアクション映画の企画を進めていたんですが、3年くらい振り回された挙げ句にダメになってしまったんです。その企画には今回『唐獅子仮面』を製作した東映ビデオさんがパートナーとして入ってくださっていて、プロデューサーの川崎岳さんは3年間のいきさつを見てくださっていたものですから、ぼくを不憫に思って「東映ビデオでなにかやりませんか?」と声をかけてくださったんです。それで「ぜひお願いします」ということで企画を出していくんですが、やはりオリジナルの企画はなかなかOKがいただけなくて、ある打ち合わせの場でぼくが「やはり日本の映画会社さんでOKをいただくには、永井豪先生のような有名な方の原作が必要なんですかね」というようなことを言ったんです。それは皮肉として言っていて、実際に永井先生の原作を映画化できるだろうとかを考えていたわけではなかったんですが、なにか「東映グループは永井先生とお付き合いが長いですから」みたいに現実味のある反応をいただいて、ぼくとしては「マジですか?」という感じでした。

―― 最初から永井先生が関わる企画として始まっていたわけではなかったんですね。

光武:そうなんです。「では、ぜひ永井豪先生の原作を元にした映画の企画を作らせてください」ということになりまして、ぼくは一番好きな漫画が「デビルマン」で、実写映画化の監督ができたら次の日に死んでもいいと思っているくらい「デビルマン」の実写映画化が夢なんですが、インディーズで映画を5本撮っただけの人間がいきなり「デビルマン」をピッチしても実現しないだろうと思ったので、そのとき作ったのは「キューティーハニーUSA」という企画なんです。「キューティーハニー」は以前にも実写化されていますが、永井先生の原作はエロティシズムもバイオレンスもかなり強いので、そういう部分を原作に忠実に、アメリカ人キャストでアメリカで映画化するという企画だったんです。東映ビデオさんはそれを「面白い」と言ってくださって、永井先生とダイナミック企画の方々に見ていただくことになったんです。それはいまから4、5年前のことで、そのときにちょうど、舞台版の「キューティーハニー」の企画が進行していたんですよ。

―― 監督の企画とは逆というか、別の方向でアレンジしての舞台化でしたよね。(※2020年上演「Cutie Honey Emotional」)。

光武:その通りで、そういう舞台と同時期に血まみれのハニーちゃんはできませんということで、お断りのお返事をいただいたのですが、その企画をお渡しするときに「こういう監督です」という資料として、プロデューサーがぼくが監督した『サムライ・アベンジャー/復讐剣 盲狼』(2009年)を一緒に渡してくださっていたようなんです。それを永井先生がご覧になって、わりと楽しんでくださったみたいで「この監督なら、こういうキャラクターはどうだろう」と、唐獅子仮面のキャラクターデザインと唐獅子仮面に変身する緋色牡丹の生い立ち、それからパートナーである宍倉剣の設定を描き下ろしてくださっちゃったんですよ! もう、東映ビデオさんの社内がちょっと騒然となりまして。「永井先生が動いてくださったのなら、映画化しないわけにはいかないだろう」ということで映画化が決まったという、そういう出発点でした。

『唐獅子仮面』を書くことでコロナのパンデミックをサバイバルできたと思っています

―― 永井先生が作られたキャラクターと設定から、どのように映画へと膨らませていったのでしょう?

光武:まずアメリカで撮影するという大前提がありまして、それなら荒野とかLAでしか撮れないような場所を使いたいと思ったので、永井先生の作品で言うなら「バイオレンス・ジャック」のような、文明が終わってしまったあとの荒廃した世界の物語にしようと思ったんです。その世界に「バイオレンス・ジャック」のスラムキングのような、力で支配する権力者がいて、支配されている民衆の最後の希望として、弱きを助け強きを挫くヒーローの唐獅子仮面がいるという設定を組み立てていきました。そこからシノプシスを作って、ダイナミック企画さんにお渡しして、永井先生にご意見などをフィードバックしていただいて、直したものをまたお渡ししてというキャッチボールをしながらストーリーを構築していったんです。そうしてシノプシスにOKをいただき、急いで映画脚本を書いて映画化を進めていこうと思ったのですが、そこでコロナ禍が始まってしまったんですよ。この企画も中止にされてしまうだろうと、すごく絶望しました。ところが、東映ビデオさんが「いつ再開できるかはわかりませんが、この時間を脚本を磨く時間にしましょう」と言ってくださったんです。それで脚本を進めようとしたんですが、リアルに終末感が漂っている世の中でフィクションのアポカリプスものを書くのは、ひじょうに難しかったです。

―― 監督はロサンゼルス在住で、コロナ禍の時期もロサンゼルスにいらっしゃったんですね。

『唐獅子仮面』スチール

『唐獅子仮面』より。緋色牡丹と宍倉剣は、ハーバートとマユミ父娘の依頼を受け、ふたりをある場所へと送り届けようとするが……。左より、宍倉剣(演:ダミアン・T・レイベン)、マユミ(演:シェルビー・パークス)、緋色牡丹(演:トリ・グリフィス)、ハーバート(演:マット・スタンリー)、マリオン・永田(演:岩永丞威)

光武:もちろんそうです。ですからロックダウンでは日没後に外出すると法律で罰せられるという戒厳令みたいな感じになっていましたし、こうして人とお会いして話をするとか、それこそ日本に帰るとか、当たり前だった日々が戻ってくるかどうかもわからなくて、ぼくも鬱のようになりましたし、みんなまともじゃなかったと思うんですよね。おまけに当時のアメリカはコロナのパンデミックに加えてトランプアメリカだったので、ダブルパンチで本当にひどい状況で、ぼくはけっこう世の中に絶望していたんです。そんな状態で脚本を書くにはどうしようかと思っていたんですが、その中でぼくが出した答えは「もう、これに抗わない」ということでした。コロナやトランプアメリカに対する自分の想いを、全部脚本に叩きつけてしまおうと思ったんです。そうして生まれた物語が『唐獅子仮面』です。やはり、当時は下手をしたらぼく自身おかしなことをしていたかもしれない危機的な状況だったのが、この脚本を書くことが一種のセラピーになって、ぼくは『唐獅子仮面』を書くことでコロナのパンデミックをサバイバルできたと思っています。唐獅子仮面はフィクションのヒーローではありますが、現実でも少なくともぼくというひとりの人間の命は救ってくれたと、感謝の気持ちを持っています。

―― 当時の社会に対する感情が吹き出しているというのは作品を拝見していても感じました。一方で、永井豪先生作品や、かつての東映任侠映画、それから1980年代のアクションやSF映画へのオマージュ的な要素が巧みに作品の中に組み込まれていて、かなり綿密に計算して脚本を書かれたのかなと思ったのですが、実際はどうだったのでしょう?

光武:あのですね、これはひじょうに不思議な体験だったんですよ。パンデミック下の特殊な状態に置かれていたものですから、頭でロジカルに構築していくのではなく、なにかが降りてくるのを書いていって、あとで見ると自然とオマージュになっているというのが多かったんです。たとえば「隕石の光を浴びると命を落とすかアノロック(ANOROC)という鬼のような怪物になってしまうけど、母親の胎内にいるときに浴びるとアノロックの力を持ちながら人間のコンシャスを持ったマン・アノロックになる」という設定も、降りてきたものを叩きつけるように書いていたら、あとになって「あれ? これは『デビルマン』のデーモンとデビルマン(悪魔人間)だよなあ」みたいなことだったんです。中には計算してやった部分もあって、ぼくが大好きな映画であるスタローンの『コブラ』(1986年・米/ジョージ・P・コスマトス監督)のオマージュなんかは意識してやっているんですけど、ほとんどは自動書記のように書いていると、永井豪先生エレメントと、東映任侠ものエレメントと、80年代オマージュとが、自然にブレンドされて吐き出されてきたんです。

―― やはり、無意識で出てくるくらい永井先生の作品の存在が監督の中で大きかったのでしょうか。

光武:たしかに、ぼくのDNAの中に永井先生イズムが流れていて「永井先生へのオマージュ作品を撮っていいよ」と言われた日からその血が活性化されて、自然とかたちになっていったの部分はあるかもしれませんね(笑)。

緋色牡丹もアフリカ系とかヒスパニック系でもいいと思っていたんです

―― キャストはアメリカの俳優がメインとなっていますが、キャスティングはどのように進められたのでしょう?

光武:純粋にオーディションでベストな方を選んでいったかたちです。オーディションをやった時期にはまだ「感染が心配なのでいまは仕事はしないよ」という俳優さんも少なくなかったのですが、それでもたくさんの応募があって、緋色牡丹を演じたトリ・グリフィスは500人以上の中で一番素晴らしかったので主演に決まりました。その相棒の宍倉剣をやったダミアン・T・レイベンも、宍倉剣のキャラクターを「スーパーヒーローの相棒でヤクザ」と説明してオーディションをしていたのでマッチョな感じの人が多かった中で、ダミアンは牡丹を親代わりに育ててきた父親としての愛というところに重きを置いてくれていたので、ダントツでよくって決まりました。そういうキャスティングプロセスですね。何人かはオーディションでない俳優さんもいて、悪役の鬼死魁星をやったデレク・ミアーズはもともとぼくの友人で出てもらいました。マリオン・永田を演じた岩永丞威さんはエグゼクティブ・プロデューサーの加藤和夫さんの推薦でキャスティングさせてもらって、彼は『燃えよデブゴン TOKYO MISSION』(2020年・中国/谷垣健治監督)でドニー・イェンと闘った国際派俳優ですから、彼が出てくれたことで映画の厚みも増して、いいコラボレーションをさせてもらったと思います。

―― 日本の漫画や任侠映画などが設定のベースとなっているわけですが、キャストの方々はそういう作品の世界にすぐに入っていけたのでしょうか?

『唐獅子仮面』スチール

『唐獅子仮面』より。デレク・ミアーズさん演じる鬼死魁星

光武:俳優さんの中には日本のポップカルチャーに詳しい人もいて、さっきも名前を挙げたデレクは日本の漫画やポップカルチャーが好きで、永井先生の名前も前から知っていたんです。彼とは友人なので「クランド、次の作品はなにをやるんだ?」「実は永井豪先生の原案で」「マジかよ! 脚本できたら読ませてくれ!」みたいなことで脚本を読んでくれて、彼のほうから「鬼死は絶対に俺がやりたい」と言ってきてくれたくらいなんです。ただ、彼はすごくいい俳優で、リメイク版の『13日の金曜日』(2009年・米/マーカス・ニスペル監督)でジェイソンをやったり、DCコミックス原作の「スワンプシング」の最新テレビシリーズでヒーローであるスワンプシングをやったり、素顔で演じることは少ないんですが大作ばかりに出ている俳優なので、本来ならとても我々の予算規模で雇える人ではないんです。でも「残念だけど、君の出演料は我々には出せないよ」と言ったら、デレク本人が「この作品には出たいから」と、アメリカ映画俳優協会が定めるミニマムの出演料で受けるよう自分のエージェントを説得してくれて、おかげで出演が決まって、デレクに助けてもらったなと感謝の念しかないです。ほかのキャストについては、そこまで日本のポップカルチャーや漫画に精通しているわけではないんですが、やはり俳優さんというのは吸収力の早い方たちなので、トリなんかも永井先生の世界観をひじょうに楽しみながら理解してくれて、その世界観に果敢に挑んでくれた感じですね。

―― これもキャスティングに関係することかなと思うのでお聞きしたいのですが、映画の中に登場する夫婦が、みんな異人種カップルですね。そこで伝えたいものがあったのでしょうか?

光武:そこは意識していた部分です。先ほども話したように、これはトランプアメリカ下で書かれた脚本なんです。日本にもトランプを擁護する人たちはけっこういるようですが、日本に住んでいるとトランプの危険性が伝わりにくい一番大きな理由は、奴がレイシストだというところにあると思うんです。魚は頭から腐りますから、一番上に立つ人間がレイシストだと、国中にいるレイシストたちが免罪符を得たようにヘイト発言をして、国中がおかしなことになってしまうんです。しかも不幸なことにあの男がコロナ禍に大統領で、あいつが「ただの風邪だ」なんて言ったことで、アメリカでは死ななくてもいいはずの人たちが何十万人も亡くなったと思いますし、あの馬鹿はコロナウイルスのことをわざわざ「チャイナウイルス」とずっと言っていましたから、アジア系に対する差別や蔑視がアメリカ中でひじょうに強くなっていました。本当に最悪だったと思います。そういう「トランプ的なもの」へのぼくの抵抗として、インターレイシャルというか異人種ミックスというのは強く意図してやったことで、夫婦であったり仲のいい関係の人たちを違う人種にしているんです。実は、緋色牡丹もアフリカ系とかヒスパニック系でもいいと思っていたんです。それで、もし彼女がマイノリティになるのであれば、相棒の宍倉剣は白人にしようと考えていました。今回は、ベストなキャストがトリ・グリフィスで、つまり緋色牡丹が白人になるので、宍倉剣をマイノリティにしたということなんです。

「普通の人を助けるヒーローの物語」をやりたいと思っていたんです

―― 『唐獅子仮面』は、2本の映画に分かれていてもおかしくないくらいの内容が121分に凝縮されている、すごく濃厚でボリュームたっぷりな作品になっていますね。

光武:そうなんですよね。ひじょうにボリューミーで、ぼくの映画の中でも一番の長尺になりました。ぼくは映画のベストランニングタイムは100分だと思っているので、121分は長いかなと自分でも思ったりはするんですが、やはりヒーロー映画の最初の物語というのは、どうしても世界観を説明したり、成り立ちを説明しなくてはいけないし、能力を説明しなくてはいけないし、敵を説明しなくてはいけないし、説明事が多いですよね。だから、どうしてもこれ以上は切れなかったですし、壮大な物語を2時間以上にならないように収めるというのは、かなり苦労したところです。ただ、飽きずに観ていただけるスピード感はあると思っています。

―― いろいろと特異な設定も盛り込まれたユニークな作品になっていますが、ストーリーの軸となっているのは「依頼を受けて依頼人を目的地まで連れていく」という古典とも言える構造で、実はすごく王道の娯楽映画という面もあると思いました。

インタビュー写真

光武蔵人監督

光武:いま、ヒーロー映画がたくさん作られている中で「誰がこの世界の王になるのか」みたいなお家騒動のヒーロー映画には、ぼくは興味を持てないんです。そういうヒーロー映画は、ヒーローを名乗りながら普通の人を助けない。ぼくはヒーローというのは普通の人を助けるものだと思っていて、このヒーロー映画過多の世の中でぼくがヒーロー映画をやるのであれば「普通の人を助けるヒーローの物語」をやりたいと思っていたんです。ですから、この『唐獅子仮面』も、唐獅子仮面の生い立ちだけの物語にならないように意識していて、そのために、まさにクラシカルな「誰かを護衛してある場所からある場所へと届ける」という、たとえば『隠し砦の三悪人』(1958年/黒澤明監督)や『スター・ウォーズ』(1977年・米/ジョージ・ルーカス監督)や『ストリート・オブ・ファイヤー』(1984年・米/ウォルター・ヒル監督)のような、ミッションの物語にしたんです。ただ、今回は主人公の唐獅子仮面が覚醒する物語でもあるので、そこがミッションものとしてはちょっとトリッキーなところです。失敗があって、それが彼女の成長につながるわけですが、ミッションを失敗してしまう緋色牡丹がお客さんに嫌われないようにしなくてはいけないというのは、気をつけた部分です。

―― そのミッションの過程などで、日本とはかけ離れた風景に「旧外堀通り」とか「国会議事堂跡」とかの地名が字幕で出るのが面白かったです(笑)。

光武:こんな山があったりね(笑)。あれは、ぼくの知っている範囲で初めてやられたのは三池崇史監督ですね。『漂流街 THE HAZARD CITY』(2000年)で、明らかにLAの荒野で撮っているのに「埼玉県戸田市」とか出るのに大笑いしましたし(笑)、そこにインスパイアされたというか、自分でもいつかやってみたいと思っていたモチーフを炸裂させたというところがあります。そういう、ちょっと面白いクスッとしてしまうようなところをたくさん散りばめた映画ではあると思っているんです。必殺技を使うたびに画面に技の名前が出るとか、あれはけっこうジャパニズムで、アメリカ人とかが見ると「誰が名前を付けたのか?」とか不思議に思うモチーフをあえて使っていて、しかも派手なフォントでバーンと出すのではなく、たとえば「NHKスペシャル」のような番組みたいな出し方にしているんです。そういうくすぐりはけっこうやっています。

―― では最後に『唐獅子仮面』に興味を持たれているみなさんへメッセージをお願いします。

光武:いままでにいろいろな永井豪先生の実写映画化作品があって、おそらく永井豪先生のファンであればあるほど、満足していらっしゃらないと思うんです。だから「もう永井先生作品の実写映画化なんて観なくてもいいよ」なんて思われている方もいらっしゃるかもしれませんが、そういう方にこそ、ぜひ観に来ていただきたいです。おそらく、いままでで一番、原作スピリットを継承させていただいた作品にはなっていると自負しておりますし、そのためにあえて製作委員会にせず、あえて低予算を選んで、その代わりに自由度をいただいて、永井先生作品にあるヌーディティであったり、バイオレンスであったり、社会メッセージであったりを、薄めることなく映像化できたと思っています。そして、家族再生の物語であったり、酷い世の中をどう生きていくかのメッセージであったり、メッセージ性もある映画なので、いまの世の中に不満を持っている方々は、この映画を観に来ていただければ、きっと約2時間、現実を忘れていただけて、ちょっとでも満足していただけるのではなかと思っています。ポスターを見て「ちょっと苦手かな」と思っていらっしゃる方も、ジャンル映画は苦手という方も、いろいろな方々に観ていただけたらと思います。

(2024年1月10日/エクストリームにて収録)

作品ポスター

唐獅子仮面

  • 原案・キャラクターデザイン:永井豪
  • 監督・脚本:光武蔵人
  • 出演:トリ・グリフィス ダミアン・T・レイベン 岩永丞威 デレク・ミアーズ ほか
  • 製作:東映ビデオ

2024年1月26日(金)より、ヒューマントラストシネマ渋谷、池袋シネマ・ロサ、シネマート新宿 ほか全国公開

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