|
|
|
『バカのハコ船』『リアリズムの宿』などで、現在日本でもっとも注目される新鋭監督である山下敦弘。その最新作は、伝説の美少女アニメ「くりいむレモン」の実写映画化。淡く澄んだ空気感と、ほのかに香り立つ甘酸っぱいエロス。駆け引きというにはあまりに純粋な心の波動を柔らかにキャッチし、上質のセンチメンタルな詩情で魅せるこの作品は、ひとりの新鋭監督の傑出した才能を証明する一作になった。
主人公・亜美を演じるのはこの役を演じるために生まれてきたような初々しさと無防備な色気を漂わせる映画初主演の村石千春。兄のヒロシには『月光の囁き』や『ロックンロールミシン』などでセンシティブな名演を見せ、今後も映画出演作が目白押しの水橋研二。求め合う二人の微妙な距離感を丁寧に表現し、良質な青春映画に仕上げた山下監督の新境地ともいえる名作が誕生した。
|
|
|
|
|
野々村亜美(村石千春)は高校に通う17歳。持病の喘息のため学校を早退した彼女は、2歳年上の兄、ヒロシ(水橋研二)が、大学にも行かずベッドにもぐりこんだままなのに呆れる。「ねぇ、お兄ちゃん。ほら起きてよ……」。共に再婚した両親の連れ子であったふたり。血のつながっていない兄妹の間には、誰も知らない、お互いにも打ち明けられない感情が芽生えていた。
ある日、海外出張で留守中の両親に代わり、ヒロシが亜美の進路相談に出席する。担任教師・佐々木(小沢和義)の乱暴な態度に怒りを表したヒロシ。亜美はそんな兄の思いを嬉しく受けとめつつ、友人の由美(勝俣幸子)に男っ気がないことをからかわれる。そのまま家に遊びに来てヒロシの部屋に上がりこんだ由美。微妙に嫉妬心を表す亜美に対し、ヒロシは言い訳じみた言葉を返した。ぎこちない空気の中、ふたりは不意に、初めて「好き」という言葉を交わす。それがどんな意味なのかは、まだ確認できていない。
風邪で発熱した亜美。付きっ切りで看病するヒロシだが、亜美の回復を待たず、彼も高熱で寝こんでしまう。毛布を羽織ったヒロシは、息を切らしながら亜美のベッドに歩み寄って突然こう告げた。「オレのこと、どう好きなの?」。亜美の手がヒロシに伸びて、ふたりは抱き合いキスをする。そしてそのまま初めて肉体関係を持つふたり。
熱の引いたふたりはまるで堰を切ったように両親のいない自宅で愛し合う。しかし、甘い日々はさほど長くは続かなかった……。
|
|