次々と日本映画のスタンダードを塗り替えてきた、岩井俊二監督。その最新作『花とアリス』は、ハナ(鈴木杏)とアリス(蒼井優)と、ハナの初恋の相手・宮本(郭智博)との奇妙な三角関 係が描かれる。
少女2人と少年1人の三角関係というのは、古今のラブストーリーで繰り返し語られてきた。だが、今まで全ての映画作品で自ら脚本を手掛け、『Love Letter』('95)では“死者からの手紙”という卓抜なアイデアを見事に記憶にまつわる恋愛劇に仕立て上げた、岩井俊二である。一筋縄で行くはずがない。
キーワードをあえてあげるならば、《記憶喪失》ということになるのだろうか。《記憶喪失》‥‥この古典的ともいえる定番ネタを逆手にとって、全く予測不可能な物語が生まれた。
少女たちの何気ない日常をコミカルに描き、ミステリーの手法を絡ませながら、《記憶喪失》に端を発したスラップスティックな物語がノンストップで展開していく。その上、少女の大人への成長物語を同時進行させるという、凄い離れ業を成し遂げたのだ。
もちろん岩井作品ならではの、リリカルな映像タッチや、繊細でリアルなダイアローグも、到る所にちりばめながら。そして、しばしば挿入される番外編的なエピソードは個々に独立した短編映画のようですらあり、それがまた予想外の引力となって物語に鮮烈な化学反応をもたらすのである。
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