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中学時代、三島由紀夫に傾倒する美少年・正巳に憧れながらも、親友の阿佐緒に好意を寄せる正巳と一定の友情を保っていた類子。現在、学校図書館司書として穏やかな生活を送っている類子は、年上の精神科医と結婚した阿佐緒を囲み、久々に正巳と再会する。しかし正巳には、類子しか知らない誰にも言えない秘密があった。高校時代に巻き込まれた事故で、正巳は性的不能に陥ったのだ。そうと知りながらも類子は、正巳への愛が止められず、また正巳も類子を愛し始めていた…。
――70年代後半を主な舞台に、類子の目線を通して語られる物語は、阿佐緒の夫・袴田を交え、点から三角、四角へと変則的にその形を変えながら、衝撃の終末へ、息苦しくなるほど濃度を増してひた走ってゆく。
「愛しているから抱きたい、愛しているのに抱けない」。類子は、そんな正巳の苦悩をも包み込んで愛したいと願い、“精神のエクスタシー”を感じるが、正巳の苦悩は決して止むことがない。
彼らの狂おしい想いや苦悩に、私たちは脳の奥が痺れるような、甘美な痛みに陶然となり、酔った気分に襲われる。“性の欲望”を直視しながらも、切なく心を震わせる“新しい純愛映画”が誕生した。
原作は、直木賞受賞作「恋」を凌ぐと言われる、小池真理子の究極の恋愛小説「欲望」。心理描写が多く、独特の空気を漂わせ、映像化するのは難しいと言われる小池作品のうち、唯一映画化が実現したのは、『female』の一篇として書き下ろした「玉虫」(塚本晋也監督)のみだった。しかし遂に映画「欲望」で、初長編映画化が実現した! 愛の喜びと絶望を、鋭くリアルに捉えたベストセラーの、行間から匂い立つような官能の芳香を見事に映し撮り、原作者・小池真理子をして「小説の世界観が見事に映像化されている」と唸らせた。
監督は、『月とキャベツ』や『はつ恋』などほのぼの切ない作風から、『深呼吸の必要』など瑞々しい青春映画を叙情的に映し出すことに定評がある篠原哲雄。一方で、『オー・ド・ヴィ』といった官能サスペンス、また『昭和歌謡大全集』に代表される文芸作品の映画化も得意とする。脚本は、篠原監督が絶大な信頼を寄せている大森寿美男と、女性脚本家・川アいづみ。
類子を演じるのは、板谷由夏。激しく燃える情熱を内に秘めた女性を、大胆なラブシーンを厭わずに体当たりかつ繊細に演じ、見る者を圧倒する。切れ長の美しく強い瞳、知的な雰囲気、官能的なシーンでさえ清楚さを失わない佇まいは、夏目雅子を彷彿とさせる。
彼女が恋焦がれる正巳には、今や日本映画界になくてはならない存在の村上淳。性的不能というハンデを一生背負わされた男の絶望と諦めきれない苦悩、それゆえ精神で相手を想い尽くす“究極の純粋な男性像”を見事に体現し、またも新境地を開いた。
正巳の美の女神である阿佐緒に高岡早紀、阿佐緒の夫であり、三島由紀夫に心酔する精神科医・袴田を津川雅彦が演じるなど、実力派が顔を揃える。
主題曲を手がけるのは、原作者・小池真理子氏と親交の厚い布袋寅泰。さまざまなジャンルの音楽を融合し、新たな音作りをする彼は、クエンティン・タランティーノの『キル・ビル』で大きな話題をさらったことも記憶に新しい。そんな彼が切々と奏でるメロディアスな主題曲は、切なさの中にも希望を感じさせ、物語の余韻を長引かせる。
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1982年、冬。ホテル・ニュージャパンの火災事故のニュースを、青田類子(板谷由夏)は抑え切れない想いで眺めていた。類子は、数年前の激情の日々に思いをめぐらせる。
図書館司書の類子は妻子ある男・能勢(大森南朋)との肉体だけの関係に溺れていた。ある日、能勢と立ち寄った小石川後楽園で、類子は中学時代の親友・阿佐緒(高岡早紀)と偶然再会する。親子ほども年の離れた精神科医・袴田亮介(津川雅彦)と結婚するという阿佐緒。阿佐緒の結婚披露パーティに招かれ、袴田邸を訪れた類子は、中学時代のクラスメイト、秋葉正巳(村上淳)に再会する。たくましく美しい青年に成長した正巳は、家業を継いで袴田邸の造園を手がけていた。
高校時代。交通事故に遭った正巳は、見舞いに訪れた類子に突然襲いかかった。しかし、それ以上のことが起こることは無かった。正巳は事故のせいで一生涯、治る見込みのない性的不能者になってしまったのだ。恵まれた容貌を持ちながら、一生女と交わることの出来ない正巳。その苦しみを、今の類子は痛いほど理解していた。
阿佐緒の結婚披露パーティー以後、3人は旧交を温めるかのように、頻繁に会うようになる。そして阿佐緒もまた、袴田との関係に苦しんでいた。
正巳は、阿佐緒に対する性的な憧れを率直に口にするが、一方で、類子にどんどん惹かれていく。そしてある晩、ついに類子を抱きしめる――。
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