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ヤクザに脅されて金を作るため無関係の一家を惨殺してしまい、逃亡する男ヨシキ。退屈な日常のなかに確かなものを見出せない少女ユメノ。小学生にしてすでに、将来を見切ってしまった少年リョウ。それまでの人生で全く接点のなかった三人はどうして出会い、一台の自動車に乗り込んで雪深い北海道を逃亡するに至ったのか。そして、彷徨の果てに彼らを待ち受けるものは――。
頭の中に鳴り響く轟音に急き立てられるように、最悪の結果に向かって突き進むチンピラ。家庭、学校、不倫……日々の生活のどこにも居場所を見つけられない少女。つまらない現実を前に、幼い胸のうちに将来の夢など信じていない少年。『YUMENO -ユメノ-』はそれぞれに閉塞した日常を抱えながらも、ここではないどこか、今ではない自分を探している、三つの魂の軌跡を描いたロードムービーである。
口当たりのよさや軽さのみが求められる日本映画の現在の風潮にあえて背を向け、実際に起きた殺人事件をモチーフにしているが、映画の眼目は事件への暴露的興味や再現にはない。作り手たちのまなざしはあくまで人間の営みに向けられ、時にやさしく、時に哀しく、そして時に力づよく彼らを見つめている。ヘヴィな題材は映画ならではの表現の魅惑によって映画に変換され、その結果、作品を風通しのよいものにしている。
監督・脚本はテレビドラマの演出家を経てピンク映画界に飛び込んだ俊英・鎌田義孝。実際の事件をモチーフに鎌田が以前より温めていた企画で、自ら出資者を募って実現にこぎつけた。彼の出身地である北海道を舞台に、自身の体験を重ね合わせて作られた渾身の一作である。行きつ戻りつ、現在と過去が混在する時制を巧みに語り切るストーリーテリングの確かさ。大胆な省略などセンスを感じさせるモンタージュ。緊張感や滑稽感、切なさといった情感を絶妙に表現するワンカット、ワンシーンごとの力強さ。いずれも並々ならぬ映画的膂力を感じさせ、ピンク映画のフィールドからまた一人新しい才能が誕生したことを実感させる。撮影は2004年2月から3月にかけて約一ヶ月、苫小牧・白老・室蘭など北海道各所で行われた。
監督と共同で、複雑な時制の構成で骨太なテーマを貫く脚本を仕上げたのは、瀬々敬久監督『Hysteric』『MOON CHILD』などを手がけ、自らも監督である井土紀州。北海道の凍てつく大地をシャープに切り取った撮影は、石岡正人監督『PAIN』や藤原健一監督『イズ・エー』などの新進気鋭、鍋島淳裕。主人公たちの心情にひたひたと寄り添うように奏でる音楽は、古厩智之(『この窓は君のもの』)、サトウトシキ(『迷い猫』『PERFECT BLUE 夢なら醒めて……』)、青山真治監督(『シェイディー・グローヴ』『EUREKA』)といった監督とのコラボレーションで知られる山田勲生。
出演は、ユメノ役にこれが映画初主演となる菜葉菜。少女ユメノをクールに坦々と演じ切り、放つ強烈な個性に今後の期待も大きい。ヨシキ役にテレビドラマや映画で個性溢れる役どころを演じて注目度上昇の大型新人・小林且弥。リョウ役にはテレビドラマやCMで活躍する子役・金井史更。彼らフレッシュな顔ぶれをサポートするのは小木茂光、内田春菊、柳ユーレイ、寺島進、夏生ゆうな、伊藤猛、渡辺真起子ら個性派揃い。また毒舌芸で人気のお笑い芸人、長井秀和の映画初出演を飾っているのも話題だ。
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北海道南西部の都市。ヤクザの菊池から女をめぐるトラブルに巻き込まれたヨシキ(小林且弥)は、3日以内に百万円を用意しろと言われて焦っていた。女子高生のユメノ(菜葉菜)と偶然知り合ったヨシキは金目当てに彼女の留守宅に侵入するが、はずみで母親と父親を惨殺してしまう。そこへ帰ってきたユメノを脅し、ヨシキはふたりの死体を車のトランクに積み込んで逃走する。ヨシキは山麓の湖に死体を遺棄するが、その現場を小学生のリョウ(金井史更)に見られてしまう。リョウは父親の死後、別れて暮らす母の住む街を目指していた。ヨシキは仕方なくリョウとユメノを連れ、車で逃走する羽目に。彼らが旅の果てに行き着く先はどこなのか――。
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