深川蛤町、夏。さまざまな店が軒を連ねる大通りを少し入ると、三軒長屋が四棟、井戸を取り囲むように建っている。その井戸端で汲み上げたばかりの水をじっと見つめる旅姿の男がいた。京の由緒ある豆腐屋で修行し、江戸で店を持つためにやってきた永吉(内野聖陽)である。その水を美味しそうに飲み干し、目を閉じて吟味する永吉に、近くに住む桶屋の娘・おふみ(中谷美紀)が微笑みながら話しかける。慌てて自己紹介する永吉。ふたりはお互い心惹かれるものを感じていた。
おふみの父・源治(泉谷しげる)のはからいで同じ長屋に落ち着いた永吉だが、柔らかい京風豆腐はしゃきっと腰のある木綿豆腐に慣れた江戸の人々の口には合わなかった。売れ残った豆腐を前に考え込む永吉をおふみは明るく勇気付ける。やがて気丈なおふみの努力もあり、次第に客が増えてくる。職人気質丸出しの永吉と働き者のおふみ。切磋琢磨して一途に働くふたりを、老舗豆腐屋・相州屋夫妻ら深川市井の人々は陰ながら見守っていく。やがて永吉とおふみは栄太郎、悟郎、おきみという3人の子供に恵まれ、夫妻の店“京や”は小さいながらも幸せに満ちていた。
そして十八年後の天明三年七月、浅間山の噴火による飢饉や大火が江戸を襲い、人々は不安の中で過ごしていた。今では大通りに店を構えるまでになった“京や”だが、長男・栄太郎へのおふみの溺愛ぶりは度を越していた。夜遊びの挙句、奪うように金を手にする栄太郎を巡り、夫婦だけでなく弟妹の仲までもおかしくなっていく――。
あかね空
監督:浜本正機
出演:内野聖陽 中谷美紀 石橋蓮司 岩下志麻 ほか
2007年3月31日(土)より新宿ガーデンシネマ、恵比寿ガーデンシネマほかにて全国公開
2006年/日本/カラー/ビスタサイズ/ドルビーSRD/120分
京から江戸に下った豆腐職人・永吉と深川育ちの娘・おふみ。味覚の違い、しきたりの違いなどで苦労しながら大通りに店を構えるまでの夫婦と子供たち2代にわたる愛情と葛藤の歳月を描いた直木賞受賞作が、待望の映画化を果たした。原作は、いまや平成の時代小説界の第一人者となった山本一力の初の長編時代小説であり、市井に生きる名もない人たちのさまざまな生き方を通して、慈愛と人情、家族の絆と再生をテーマに描き、多くのファンを集めている。
映画化に全力を注いだのは、『梟の城』『少年時代』などの名匠・篠田正浩。2003年に『スパイ・ゾルゲ』をもって映画監督業からの引退を宣言した直後に原作と出会い感銘を受けた篠田は、映画化を決意。監督には近年の篠田組を支え、2001年の『ekiden[駅伝]』でデビューを果たした俊英・浜本正機が時代劇に新風を吹き込むべく迎えられ、最高の師弟コンビが約2年をかけて共同で脚本化に取り組んだ。
主演はまさにエポックメイキングな演技派スターの初めての共演となった。2007年のNHK大河ドラマ「風林火山」で主役の山本勘助を演じる内野聖陽と、『嫌われ松子の一生』など話題作に主演している中谷美紀のふたりである。希望にあふれる夫婦の姿を若々しい装いで魅せる映画の前半から、幾多の困難を乗り越えながら予測できない運命のラストまで、今、一番脂の乗り切ったふたりが演じきる。さらに、岩下志麻、泉谷しげる、石橋蓮司、中村梅雀、勝村政信など、日本映画界を代表する実力派演技人が結集、波乱万丈の展開を見せ感動のクライマックスへと突き進むストーリーの脇を固める。
また、オープニングを飾る富士山も見渡せる大江戸全景や人々が行きかう巨大な永代橋などが、卓越したVFX映像で現代によみがえり、物語にリアルな迫力を生んでいる。
明けない夜はない…夜の闇があかね色の朝日で染められていくように、幾多のつらいことや哀しいことを乗り越えていったときに訪れる人生の充実感や願いや夢や…。『あかね空』は、そんな想いに満ち溢れた感動作である。
- 永吉/傳蔵:内野聖陽
- おふみ:中谷美紀
- 平田屋:中村梅雀
- 嘉次郎:勝村政信
- 源治:泉谷しげる
- おみつ:角替和枝
- 栄太郎:武田航平
- 悟郎:細田よしひこ
- おきみ:柳生みゆ
- 西周:小池榮
- 卯之吉:六平直政
- 役者:村杉蝉之介
- 着流し:吉満涼太
- スリ:伊藤高史
- 常盤屋:鴻上尚史
- 上州屋:津村鷹志
- 武蔵屋:石井愃一
- 瓦版屋:東貴博(Take2)
- 清兵衛:石橋蓮司
- おしの:岩下志麻
- 監督:浜本正機
- エグゼクティブプロデューサー:稲葉正治
- プロデューサー:永井正夫/石黒美和
- 企画:篠田正浩/長岡彰夫/堀田尚平
- 脚本:浜本正機/篠田正浩
- 撮影:鈴木達夫
- 照明:水野研一
- 美術:川口直次
- 録音:藤丸和徳
- 整音:瀬川徹夫
- 編集:川島章正
- 音楽:岩代太郎
- 原作:山本一力
- 製作:あかね空LLP OLC・ライツ・エンタテインメント
- 配給:角川ヘラルド映画