
母が亡くなった日に父親が失踪!? 17歳の青春の入口でとんでもない事態に直面した高校生のみつこ。半年後に見つかった父の悟は、町の外れに住むおかしな女性“アルゼンチンババア”と恋におちていた!
よしもとばななが2002年に発表した「アルゼンチンババア」は、人の生と死をテーマにしながら、じんわりと体中に染み渡っていくような幸福の姿を心優しい文体で描き出した傑作小説。『鉄塔武蔵野線』(1997)、『さゞなみ』(2002)の長尾直樹監督はこの小説に早くから着目し、よしもと原作映画としては最大規模の予算で念願の映画化を実現した。
そして期待感たっぷりの豪華キャストが物語を彩る。みつこをひとり置いて家を出てしまうダメな父親だが、純粋で、仕事にも亡き妻にも一途だった職人気質の石屋・悟には役所広司。誰もがそのさわやかな存在感に心を奪われる健気なみつこ役には堀北真希。そして大きな愛の力で人々の心を包み込む不思議な存在であるアルゼンチンババアは鈴木京香がリアルとファンタジーの狭間で見事に演じきっている。さらに、みつこを支える叔母の早苗に森下愛子。いとこの信一役に新人・小林裕吉。イルカが好きだった亡き母親・良子に手塚里美。そして、父娘の行方を見守る善良な町の人々を演じる岸部一徳、田中直樹(ココリコ)、きたろうらが物語にコミカルな味を加えている。
気持ちのよい草原に流れるアルゼンチン・タンゴの楽曲は世界的バンドネオン奏者・小松亮太。古いアンデス民謡をアレンジした主題歌で透明感のある歌声を聴かせてくれるのはタテタカコ。そして周防義和の音楽が父と娘のドラマの感情をじんわりと盛り上げている。
撮影の拠点になった、アルゼンチンババアの住む通称“アルゼンチンビル”は、栃木県那須の町営牧場に敷地を借りて建設されたオープンセット。屋上に突き出た緑の丸屋根が異国情緒を醸し出し、ビルの屋内も“何も物を処分しない”アルゼンチンババアの小物がびっしりと集められ、物語のもうひとりの主役として豪華に機能している。

仲の良かった3人家族。イルカの島で過ごした楽しい想い出を残し、大好きだった母の良子(手塚里美)が死んだ。母を愛し、仕事一筋だった墓石彫りの父の悟(役所広司)はなぜかその日に限って病院に顔を出さず、突然、姿を消してしまった! 半年後、父は変わり者の女の人の屋敷で発見された。そこは広い草原にぽつんと佇む小さな田舎町のなかの異国。
昔はタンゴやスペイン語を教えていたが、今はちょっと頭がおかしくなって怪しい呪文を唱えているとみんなが噂する謎の“アルゼンチンババア”(鈴木京香)。母親の供養もほったらかして、どうして父がそんな女性のもとに!? 一人娘のみつこ(堀北真希)は勇気を奮い起こし、父親奪還に向かうのだが…。