中学生の初子(東亜優)は兄の克人(塩谷瞬)とふたり、文化住宅で暮らしている。母(鈴木砂羽)に先立たれ、父(大杉漣)は小さい頃に蒸発。兄は高校を中退して稼いだ少ないお金を風俗に使ってしまう。
「一緒に東高行くんで」。同級生の三島くん(佐野和真)との約束。でも、うちにはそんなお金、どこにもない。「カネ、カネ、カネ……」ラーメン屋のアルバイトの帰り、今日も初子は虚ろに歩く。お母さんが大好きだった「赤毛のアン」。孤児のみんなに好かれて幸せになるけれど、そんなの夢に決まってる。『赤毛のアン』なんて大嫌い!
かなわない高校に行く夢、工場をクビになって自暴自棄になる兄、未払いで止まる電気、たくさんの不幸を、初子はひとり小さな体で受け止める。「あんた、いっつも誰かが助けてくれるいうて思うとるじゃろ」。そんな初子を担任・田尻(坂井真紀)は突き放す。精一杯の初子に三島くんから差し出された、赤いマフラー。一緒に巻いて、嬉しくなった初子は本音をもらす。「嫌いじゃったアンに本当は憧れとったん」。そんなとき、失踪していた父が姿を現す…。ほつれた家族の糸は? 三島くんへの想いは? そして中学を卒業して、初子はどんな春を迎えるのだろうか。
赤い文化住宅の初子
監督:タナダユキ
出演:東亜優 塩谷瞬 佐野和真 ほか
2007年5月12日(土)より渋谷シネ・アミューズにてロードショー
2007年/日本/35mm/DTSステレオ/100分
松田洋子が初めて挑んだ純情恋愛コミック「赤い文化住宅の初子」。それは、吉田戦車氏が「ヒロインの半端でない幸薄さとささやか極まりない希望。泣けた」と絶賛し、南Q太氏が「なんて切ない青春!」と涙した、とてつもなく薄幸の少女・初子がただひとつ「恋」を支えに生きる珠玉の名作。この作品を『タカダワタル的』『月とチェリー』で鮮烈な衝撃を残し、『さくらん』(監督:蜷川実花)では、脚本を手掛けた新鋭女性監督タナダユキが映画化。絶望的な哀しみの中にある初子が持つささやかな希望と、家族のぬくもり。「本当に映画にしたいものしか撮りたくない」というタナダユキが渾身の力を込めた本作は、闇の中でまたたく灯りのような初子を、ときに愛おしく抱き締め、ときに非情なまでに突き放します。
物語のエンディングで流れるのは、UAが本作のために書き下ろした新曲「Moor」。作品を観たUA自身が作詞を手掛けた「Moor」は、あまりにも切ない初子の物語を愛おしむかのように、見終わった私たちの心を惹き付けてはなしません。そして、サウンドトラックには、今作が映画音楽としては初の豊田道倫が参加。豊田道倫の持つ比類なき世界観が、初子が抱いている物憂気な心情を豊かに表現しています。
主人公の初子役に選ばれたのは、第29回ホリプロタレントスカウトキャラバンで審査員特別賞を受賞し、TBS愛の劇場「我輩は主婦である」で主人公の娘を演じた東亜優。磯村一路監督、奥原浩志監督などの主演に抜擢された期待の大型新人女優が、透明感と飾らない演技で等身大の少女を演じ、見る者を離さない存在感を感じさせています。兄・克人には、『パッチギ』で国籍の狭間で少女に恋する青年を演じた若手実力派・塩谷瞬。初子に恋心を抱く三島に、TBS「花より男子」で好演したニューフェイス・佐野和真。中学の担任・田尻に、数々の監督に信頼され、出演作が相次ぐ坂井真紀。ふいに現われ兄妹から母を奪ってしまう蒸発した父親に大杉漣、母親役には鈴木砂羽。そして『月とチェリー』で主演をつとめた江口のりこ、そのほか、浅田美代子、諏訪太朗、鈴木慶一など、タナダユキとの仕事を待ち望んだ実力派、個性派たちが脇を固めています。
それぞれの想いが結晶となって詰まった、痛々しいまでに切なく、そしてささやかな愛情を持って描かれる、15歳の少女の純愛物語。
- 東亜優
- 塩谷瞬
- 佐野和真
- 坂井真紀
- 桐谷美玲
- 鈴木慶一
- 鈴木砂羽
- 諏訪太朗
- 江口のりこ
- 安藤玉恵
- 本多章一
- 伊藤幸純
- 佐倉萌
- 浅田美代子
- 大杉漣
- 脚本・監督:タナダユキ
- 原作:松田洋子(「赤い文化住宅の初子」太田出版刊)
- 主題歌:「Moor」UA(ビクター/スピードスターレコーズ)
- 音楽:豊田道倫
- エグゼクティブプロデューサー:片岡正博/相原裕美
- 企画プロデュース:越川道夫
- プロデューサー:小林智浩/佐藤央/木村俊樹
- ラインプロデューサー:南雅史
- 撮影監督:下元哲
- 録音:湯脇房雄
- 美術:石毛朗
- 編集:渡会清美
- 制作:ステアウェイ
- 製作:トライネットエンタテインメント/ビクターエンタテインメント/スローラーナー
- 配給:スローラーナー