大阪・通天閣のふもと。ひなびたアパート「パンション飛田」では、今日もイサオ(阿部寛)がちゃぶ台をひっくり返す音が響く。妻の幸江(中谷美紀)が作った食事が四方八方に散らばる。イサオは無口な乱暴者で酒飲み、その上ギャンブルに明け暮れている。
幸江の不運と貧乏は、実は今に始まったことではない。宮城県・気仙沼で生まれた幸江は、物心つく前に母が家出し、男手一つで幸江を育てた父・家康は、飲んだくれで借金まみれだった。生活は中学生の幸江の新聞配達や内職にかかっていた。「幸せになれますように」と神社でお参りするのが日課の幸江に、ある日事件が起こる。家康が愛人と新婚旅行に行くために銀行強盗をして捕まってしまったのだ。パンツ一丁で連行される父の姿にボーゼンとする幸江。
さて、今日も今日とて、イサオのちゃぶ台返しは続く。折角作ったトンカツも、無理して大枚をはたいて買った寿司も全てひっくり返された。しかし、見かねた隣に住む後家のおばちゃん・小春(カルーセル麻紀)に別離を薦められようとも、「あんな奴と別れて、俺と一緒になろう」と、幸江が働く食堂・あさひ屋のマスター(遠藤憲一)にしつこくプロポーズされようとも、幸江はイサオと一緒にいられるだけで幸せだった……。
自虐の詩
監督:堤幸彦
出演:中谷美紀 阿部寛 ほか
2007年秋全国ロードショー
2007年/ヴィスタサイズ/ドルビーデジタル/115分
1985年から5年にわたり「週刊宝石」で連載された業田良家のマンガ「自虐の詩」は、4コママンガでありながら哲学的な深い人生観を描き出した作品として「日本一泣ける4コママンガ」と大絶賛された伝説の作品である。
この作品がついに映画化を果たす。監督は堤幸彦。主人公の夫婦を演じるのは、中谷美紀と阿部寛。堤幸彦と中谷美紀といえば「ケイゾク」。堤幸彦と阿部寛といえば「トリック」。それぞれ劇場版も製作された人気シリーズを生んだメンツによる最強のコラボレーションが実現した。
健気な妻・幸江と無口な夫・イサオとの一風変わった愛や生活の様子を面白おかしく描き、必殺のオチはイサオのちゃぶ台返し…というお決まりのパターンを重ねていきながら、やがて物語は大河小説の態をなし、一発逆転大ホームランを放つ。
大阪・通天閣を見上げる下町が舞台に、『嫌われ松子の一生』で数々の映画賞を独占した中谷美紀が、くすんだ服、ノーメイクで幸江を演じ、松子とはまた異なった新しいヒロインを作り出した。阿部寛はこれまでの作品で見せたラテン系伊達男から一転、無口で乱暴者、パンチパーマのイサオという、これまた新たな境地に挑戦している。そして、幸江とイサオを取り巻くのはバカバカしいほどバイタリティに溢れた人々。隣人の面倒見のいいおばちゃん・小春にカルーセル麻紀、幸江に一方的に思いを寄せる食堂・あさひ屋のマスターに遠藤憲一、愛人と新婚旅行に行くために銀行強盗を働いてしまう幸江の父・家康には西田敏行が配された。さらに竜雷太や名取裕子、松尾スズキ、蛭子能収などの実力派、異能派俳優が色をそえている。
『自虐の詩』は、一見ギャグやCG満載のぶっとんだバラエティのように見えるが、生活の中のリアルな笑いを描いてきた堤幸彦監督の真骨頂である。濃い面子によるリズミカルな大阪下町貧乏コントに笑い転げていると、いつしか、幸江とイサオの愛の姿に号泣させられてしまう。笑いの中に人間を描くこと──堤幸彦監督がこれまでやってきたことが、「自虐の詩」という原作と出会い、昇華したといっても過言ではない。これは堤版「平成・夫婦善哉」である。
ラストに流れる安藤裕子の主題歌「海原の月」の心地よい曲が物語に一層の深みをもたらし、笑いあり、涙ありの怒涛のエンターテイメントがここに誕生した。
- 中谷美紀
- 阿部寛
- 遠藤憲一
- カルーセル麻紀
- ミスターちん
- 金児憲史
- 蛭子能収
- 島田洋八
- 松尾スズキ
- 岡珠希
- 丸岡知恵
- Mr.オクレ
- 佐田真由美
- アジャ・コング
- 斉木しげる
- 竜雷太
- 名取裕子
- 西田敏行
- 製作総指揮:迫本淳一
- 企画:細野義朗
- 原作:業田良家(竹書房刊)
- 脚本:関えり香/里中静流
- プロデューサー:植田博樹/石田雄治/中沢晋
- 主題歌:「海原の月」安藤裕子
- 撮影:唐沢悟
- 美術:相馬直樹
- 照明:木村匡博
- 録音:鴇田満男
- 編集:伊藤伸行
- 音楽:澤野弘之
- 製作:松本輝起/遠谷信幸/高橋一平/久松猛朗/島本雄二/渡邊純一/平林彰/長坂信人/山崎浩一/喜多埜裕明/大下勝朗
- エグゼクティブ・プロデューサー:北川淳一
- アソシエイト・プロデューサー:今川朋美
- 装飾:田中宏
- 映像調整:吉岡辰沖
- スクリプター:奥平綾子
- 助監督:白石達也
- 製作担当:山崎朝之
- スタイリスト:市井まゆ
- 衣裳:冨樫理英
- ヘアメイク:細川昌子
- 音楽プロデュース:志田博英
- 音響効果:小川広美
- VFXスーパーバイザー:野崎宏二
- アクションコーディネーター:諸鍛冶裕太
- 宣伝ライター:木俣冬
- 制作プロダクション:オフィスクレッシェンド
- 監督:堤幸彦
- 「自虐の詩」フィルムパートナーズ:S・D・P/松竹/ジェネオンエンタテインメント/竹書房/衛星劇場/電通/スカパーウェルシンク/日販/オフィスクレッシェンド/パルコ/Yahoo! JAPAN/エイベックス・エンタテインメント
- 配給:松竹株式会社