
観る者の心をわしづかみにする演出手腕でハリウッドの頂点に立った「リング」シリーズの中田秀夫監督が、5年ぶりに日本映画を撮りあげた。三遊亭円朝の傑作「真景累ヶ淵」(しんけいかさねがふち)を題材に、おそろしいほどの深い愛を描いた物語『怪談』。古典ならではの日本の美と、映画でしか描けない斬新なイマジネーションが融合した、まったく新しいエンターテインメントの登場である。
煙草売りの新吉と、三味線の師匠・豊志賀(とよしが)。江戸の街筋で出会い、惹かれ合うふたりだが、ふたりは出会ってはならない、愛し合ってはいけない運命を背負っていた――。
新吉役で映画初主演を果たすのは、人気・実力ともに若手歌舞伎俳優を代表する尾上菊之助。所作のひとつひとつに洗練された和の美しさが香りたつ。豊志賀役には日本を代表する女優・黒木瞳。毅然として生きてきた女が初めて恋に狂う、その一途さが物語を突き動かす。新吉に関わってしまったために運命を狂わされていく女たちを、井上真央、麻生久美子、木村多江、瀬戸朝香らの女優陣が、たおやかに、華やかに演じきる。
原作では「因縁」ゆえに起こる悲劇の連鎖を「愛の物語」に昇華させた脚本は『時をかける少女』『しゃべれども しゃべれども』の奥寺佐渡子。さらに撮影・林淳一郎、照明・中村裕樹、美術・種田陽平というスタッフたちが“怪談”というジャンルを越えた色艶のある情景を作り上げた。恋する女たちの想いを象徴した衣裳デザインは、『たそがれ清兵衛』『武士の一分』の黒澤和子。愛から憎しみへ、そして恐怖へと観る者の鼓動を駆り立てていく音楽は『リング』『デスノート』の川井憲次。さらに浜崎あゆみがこの映画のために書き下ろした主題歌「fated」で、運命の愛を歌い上げる。総製作費12億円のプロジェクトを起動させ、世界へと送り出すのはハリウッドでも活躍する一瀬隆重プロデューサー。
美と恐怖に彩られた愛の物語『怪談』は、早くも世界50ヶ国での配給が決定。この夏、世界に向けて始動する。

下総の国、羽生村。ある雪の夜、深見新左衛門(榎木孝明)という武士が、借金取りの皆川宗悦(六平直政)を斬り捨て、死体を累ヶ淵に沈めてしまう。やがて新左衛門は錯乱して妻を斬殺、深見家はお取り潰しとなり、残された赤ん坊は使用人の勘蔵(光石研)に引き取られていった。
一方、惨劇を知る由もない宗悦のふたりの娘は降りしきる雪のなか、帰らぬ父をいつまでも待ち続けるのだった。
それから25年後。江戸、深川。煙草売りの新吉(尾上菊之助)と、富本(とみもと)の師匠・豊志賀(黒木瞳)。とある街筋で出会ったのをきっかけに、新吉は年上の豊志賀への想いを募らせるようになる。そして雪の降りしきるある夜、ついにふたりは男女の一線を越えてしまう。
やがて豊志賀は新吉に惚れ込むあまり嫉妬深くなり、稽古にも身が入らない。豊志賀の妹・お園(木村多江)はそんな姉を心配して、新吉と縁を切るよう頼むが豊志賀は耳を貸さない。身持ちが堅いという評判もいつしか地に堕ち、弟子たちも次々に辞めていく。このままでは迷惑がかかる、とついには新吉が別れ話を切り出すのだが、豊志賀は聞き入れない。言い争ううちに、弾みで三味線のばちが豊志顔の顔を傷つけてしまう。傷は酷く腫れあがり、美しかった豊志賀の形相はすっかり変わってしまう。豊志賀を必死に看病する新吉だったが、隅田川の花火の夜、偶然に弟子のひとり・お久(井上真央)と行き会う。お久は継母のいじめに耐えられず、下総に住む叔父を頼って江戸を出るつもりだという。話を聞いた新吉はお久を抱きしめ、一緒に江戸を出ようと心に決める。
そのころ、豊志賀は「このあと女房を持てば必ずやとり殺すからそう思え」と書き残し、息絶えていた。いつの間にか腫れがひいたその顔は、ぞっとするほど美しかった……。