
オンナ癖の悪い父親と嫉妬深い母親。そんな両親が営む不動産屋のバイトにやって来たのは、父親の愛人。そして自分はと言えば、付き合って半年経つ恋人の手も握れず、彼女は今日も機嫌が悪そうだ。大人たちのドタバタや恋人のイライラに、高校生の賢治は悩める日々を送る……。舞台となった大阪十三など関西地区で先行上映され、好評を博した第47回日本映画監督協会新人賞受賞作『かぞくのひけつ』が、ついに東京上陸を果たす。
監督の小林聖太郎は、井筒和幸監督の『パッチギ!』『ゲロッパ!』、根岸吉太郎監督の『雪に願うこと』、森崎東監督『ニワトリはハダシだ』など、日本映画の巨匠たちの作品に助監督として参加してきた。大阪出身の小林監督が、等身大のありのままの大阪人を描きたいとメガホンをとった本作は、鋭い観察眼で大阪の軽やかさと喧噪を心地良いリズムで描き出す。
主人公の悩める高校生・賢治を演じるのは、冨樫森監督『ごめん』や黒土三男監督『蝉しぐれ』の久野雅弘。『ごめん』で性に目覚める小学生の戸惑いを好演した彼が、今度はちょっと弱くて情けない高校生をリアルに演じる。賢治の両親には、マルチな才能を発揮する秋野暢子と、上方落語で絶大な人気を誇る桂雀々が、ぴったりと息の合った演技で大阪の夫婦の関係を巧みに魅せている。賢治の恋人・典子には『カナリア』『檸檬のころ』などの若手実力派女優・谷村美月。そして、父親の愛人・ゆかりには映画、舞台などで活躍の幅を広げるちすんが揺れ動く女心を繊細に、かつ逞しく表現している。さらに、チャンバラトリオの南方英二や九十九一、浜村淳、長原成樹など、関西の人気者が多数出演。中でも、本作のテーマを象徴するかのような歌「行き先は若者」も披露している怪しい薬屋の店主役・テントの存在感は抜群だ。
なんで男と女は一緒になろうとすんねやろ? 思春期の少年が直面する人生の疑問。『かぞくのひけつ』は、心地良い笑いを繰り広げつつも、そんな少年の心理を瑞々しく描いた、21世紀の喜劇映画である。

大阪・十三の不動産屋の息子・賢治(久野雅弘)は高校生。同じ高校の典子(谷村美月)と付き合って半年になるが、まだ手も繋げずにいた。実は賢治、自分が性病にかかっていると思い込んでいるのだ。そんな事情を知らない典子は映画館でのデートの帰り、賢治を後ろに乗せたまま自転車でホテル街へと。慌てて逃げ出した賢治に投げつけられる「私のこと嫌いなんや!」という典子の声。ふたりの気持ちはすれ違ったまま。
一方、昔からオンナ癖の悪い賢治の父・宏治(桂雀々)の素行が気になる母の京子(秋野暢子)は、賢治に父親の尾行を頼む。仕方なく父のあとを追って居酒屋に入った賢治が見たのは、若くて綺麗なゆかり(ちすん)と一緒にいる父の姿だった。父が帰ったあと、賢治はゆかりのあとを追って父と別れるように説得。妻と別居中、子供はいないという宏治の話が嘘だと知ってショックを受けるゆかり。母には秘密にして一件落着、のはずだったのだが……。
翌日、母から新しいアルバイト従業員を紹介されて賢治はビックリ。なんとそれはゆかりだったのだ! 母はパソコンが得意で気の利くゆかりが気に入って上機嫌。店に戻ってきた宏治は顔色を変え、賢治は頭を抱える。
そして学校では、賢治の煮え切らない態度に不安を抱える典子に、スポーツ万能のモテ男・立花が近づく。なんだか、雲行きが怪しいぞ?
家でも学校でも巻き起こる、“男と女”のややこしいアレコレ。思春期の賢治の悩める日々は続く……。