
ラジオがいま以上に強い影響力を持っていた1977年、海辺の病院で、小さなディスクジョッキーが「想いを伝える」ことの大切さを教えてくれた――。『Little DJ 〜小さな恋の物語〜』は、病に倒れながらもひたむきに生きる少年の姿を、ラジオの持つノスタルジックな温かさとともに贈る感動作だ。
原作は鬼塚忠の同名小説。鬼塚がある取材で知ったエピソードを基に書き上げたフィクションで、発売早々15万部を越えるベストセラーとなっている。幅広い層の感動を呼んだ原作を、どの世代もが共感できる作品として完成させたのは、新鋭女性監督・永田琴。長編デビュー作『渋谷区円山町』で何気ない日常を切り取りつつ女性ならではの視点を交えた演出は、本作でも光っている。
主人公・太郎を演じたのは、14歳にして数多くのドラマや映画に主演し、すでに“天才子役”という肩書きには収まらない活躍を見せる神木隆之介。「太郎を神木くんが演じてくれるなら」と映画化を承諾した原作者の期待に応え、病院のベッドの上で思春期を迎える少年の心理を繊細に演じている。太郎の初恋の相手となるたまきにはドラマ「女王の教室」で注目を浴びた福田麻由子。可憐な笑顔の中に秘めた、太郎を支えようとする優しさと強さを見事に体現している。
太郎の両親には実力派の石黒賢と西田尚美、若い医師には演劇ユニットTEAM NACKの佐藤重幸、看護婦のかなえに「風のハルカ」の村川絵梨、同室の患者には光石研と松重豊、型破りな治療を試みる院長にはベテラン・原田芳雄と、充実したキャストが若いふたりを支えている。また、映画のプロローグとエピローグでは、成長したたまきを広末涼子が、そして太郎が憧れるラジオDJを日本のDJの草分けである小林克也が演じているのも注目だ。
音楽は『ALWAYS 三丁目の夕日』などヒット作品を手掛ける佐藤直紀。美しいメロディが映画を優しく彩る。さらに劇中ではシュガーベイブの「SHOW」やQUEEN「愛にすべてを」など、1970年代のヒットソングが使われている。そして当時のトップアイドル・キャンディーズの「年下の男の子」が、映画にさわやかな余韻を残す。

1977年、函館。12歳の高野太郎(神木隆之介)は、野球好きの父親(石黒賢)の影響で、毎日素振りをするのが日課。練習のおともはラジオの実況中継や、リクエスト番組だ。ある日の試合中、突然倒れてしまった太郎は、母親(西田尚美)に連れられ、伯母のかなえ(村川絵梨)が勤める病院に向かう。“若先生”(佐藤重幸)の診察を受けた結果、太郎は入院することになる。
慣れない入院生活に退屈していた太郎は、昼食時に院内に流れるクラシック音楽の院内放送が気になりだした。病室のスピーカーから線をたどっていくと、その先には壁いっぱいのレコードや、見たこともない立派なアンプやスピーカーの揃った部屋。興味津々の太郎の前に、部屋の主である“大先生”(原田芳雄)が現れる。
大先生は、太郎に院内放送のDJを任せることを思いつく。好きなことをやることが治療の一環になると考えたのだ。そして毎日、昼食時には太郎の声が病院内に流れることになる。大好きなラジオ番組「ミュージックエクスプレス」からとって、タイトルは「サウンドエクスプレス」。病院内の雰囲気も明るくなり、太郎はほかの入院患者の間の人気者になっていく。
太郎のDJが病院に欠かせないものになったころ、太郎の入院する4人部屋に新たな患者が移動してくる。太郎のひとつ年上の海乃たまき(福田麻由子)だ。たまきの笑顔に、太郎はひと目で恋に落ちてしまう。こっそりと深夜放送を聴いたり、音楽や映画について会話を交わしたり、楽しい日々を過ごすふたりだったが――。