サッド ヴァケイション
監督：青山真治
出演：浅野忠信 石田えり 宮崎あおい 板谷由夏 中村嘉葎雄 オダギリジョー ほか
２００７年９月８日(土)よりシネマライズほかにてロードショー
２００７年／カラー／アメリカンヴィスタ／ＤＴＳステレオ／１３６分
幼いころに自分を捨てた母との運命的な再会を果たした息子。母への復讐を胸に秘めてともに暮らし始めた息子の前に、偉大なる母性が立ちはだかる……。運命に抗い、翻弄される男たちと、すべてを包み込みながら美しく生きる“ゆるぎない女たち”。やさしく、したたかな女たちの笑顔が、男たちを未来へと導く……。
『Helpless』で鮮烈なデビューを飾り、『EUREKA ユリイカ』で国内外での評価を不動のものとした青山真治。『Helpless』から11年、『EUREKA ユリイカ』から７年を経て描き出した“北九州サーガ”の集大成的作品が、『サッド ヴァケイション』である。「EUREKA」で三島由紀夫賞を受賞するなど、小説家としても活躍する青山自身の同名小説をベースに、全編北九州ロケを敢行。大規模な予算をかけた充分な製作環境のもと、青山監督は遺憾なくその才能を発揮し、新境地を切り開いた。新たなエッセンスはずばり“やさしさ”。鋭い洞察力と膨大な知識に裏打ちされた作家性は健在であるが、観る者を釘づけにするストーリー展開、ヴァラエティに富んだ斬新な音楽などが加わり、これまでにない、明快かつ爽快感溢れる新たな青山ワールドが広がっている。
主演は、『Helpless』に続いて健次を演じる浅野忠信。前作から11年を経た今だからこそ演じることのできた新境地を見せる。もうひとりの主役と言うべき、母・千代子役には、名女優・石田えりが強さと恐さをあわせ持った母親像を体現し、強烈な印象を残す。そして、ＮＨＫドラマで主演をつとめるなど国民的女優に成長した宮崎あおいが『EUREKA ユリイカ』に続いて梢を演じ、繊細な演技を見せる。梢とともに働く後藤役には、今もっとも注目される俳優であるオダギリジョー。陰のある男をミステリアスに演じている。健次の恋人・冴子役には『運命じゃない人』での好演など、活躍がめざましい板谷由夏、健次の異父兄弟・勇介役には『地下鉄（メトロ）に乗って』ほか数々の話題作に出演する若手実力派俳優、高良健吾。千代子の夫・間宮役で大ベテランの中村嘉葎雄が慈愛と寛容の精神に溢れた父親を見事に演じ、『Helpless』と『EUREKA ユリイカ』にも出演していた光石研と斉藤陽一郎が抜群のコンビネーションで作品にユーモアを添えている。
原作・脚本・監督を務めた青山真治のもとに、音楽の長嶌寛幸、美術の清水剛、撮影のたむらまさき、照明の中村裕樹など実力派スタッフが集まり、新境地に挑む青山監督を強力サポート。そして、プロデューサーには甲斐真樹。監督および甲斐自身も北九州出身ということもあり、オール北九州ロケを敢行。オープニングの空撮、日本三大カルストと呼ばれる平尾台や若戸大橋のシーンなどの美しい映像と、独特の方言や荒々しい雰囲気が絡み合い、北九州という土地が持つ独特な空気を完璧に再現した。
北九州の港に１隻の船が到着する。乗っていたのは中国からの密航者。彼らの手引きをしていた健次（浅野忠信）は、船内で父親を亡くしてしまった少年アチュンを連れて家へと逃げ帰る。５歳のときに母に捨てられ、精神を病んだ父親も自殺してしまった健次は、ある事件をきっかけに、ヤクザだった幼なじみの安男の妹・ユリ（辻香緒里）と共に暮らしていた。知的障害者であるユリ、まだ幼い無邪気なアチュンとの新たな共同生活に、健次は安らぎを感じ始める。
小さな運送会社・間宮運送の社長の間宮（中村嘉葎雄）は、かつてバスジャック事件の被害に遭った梢（宮崎あおい）、借金取りに怯える後藤（オダギリジョー）をはじめ、脛に傷持つ流れ者たちに職と住みかを与えていた。お互いを詮索することなく一定の距離を保っているが、心のどこかでつながりを求めている彼ら。そんな彷徨い人たちを間宮は放っておくことができない。
まるで接点がないかのように見えたこのふたつの疑似家族が、運命のいたずらによって交わることになる。運転代行へと職を変えた健次は、ある日、慣れない酒に酔って運転できなくなった間宮の運転代行をする。そして、間宮運送まで送り届けた健次は、玄関先に出てきた間宮の妻・千代子（石田えり）の姿を見て驚愕する。千代子は、かつて健次を捨てていった母に違いなかった。
再び母とひとつ屋根の下で暮らし始めた健次。ずっと胸に秘めてきた健次の復讐心は、日に日に大きくなる千代子という母親の存在に惑わされ、翻弄される。唯一心を通わせる恋人の冴子（板谷由夏）に会ってもイライラの消えない健次は、ある夜、ついにその復讐心を異父兄弟の勇介（高良健吾）にぶつけ、失踪へと追い込んでいく。
かつて母だった女、かつて息子だった男。つながりを求める者、断ち切る者。どんなに健次が千代子に復讐を果たそうとしても、その前に立ちはだかる偉大なる母性。すべてを包み込みながら美しく生きる、“ゆるぎない女たち”。梢、ユリ、冴子、そして千代子、やさしく、したたかな女たちの笑顔が、男たちを未来へと導く……。
