ワンルームのゴミだらけの狭い部屋で、テレビをみては眠りにつくという生活を続けている有紀(穂花)。就職しても折り合いがつかず辞めてしまい、もう5年もそんな生活を続けている。訪ねてくるのは実家から送られてくる食料と、伊藤恵二(三浦アキフミ)と山崎勝也(大橋てつじ)のふたりだけ。伊藤は有紀の部屋にカメラを設置し、彼女の生活をネットに配信している。定期的に有紀の部屋にやって来ては、カメラに良く映るようにして有紀を抱く。
習慣として食事を摂り、お腹が満たされればまた眠る有紀。夜中じゅうテレビを眺め、やがて朝が来る――。そこに、支援センターのカウンセラー・馬戸明(まど・あける/田村泰二郎)がやって来る。有紀の母親から頼まれて、有紀を社会的に復帰させるためにやって来たのだ。「テレビばかり見てると馬鹿になりますよ」。テレビの画面を見つめるばかりの有紀に馬戸はさまざまなことを話しかけるが「ぬかに釘」状態である。馬戸はそんな有紀にシンプルな提案をする。ジャンケンをして馬戸が勝ったら部屋の外に出る、有紀が勝ったら馬戸は帰るという単純なルールだ。ふたりがジャンケンで勝負を決めようとしたとき、チャイムが鳴った。凶暴な性格の山崎がやって来たのだった…。
テレビばかり見てると馬鹿になる
監督:亀井亨
出演:穂花 三浦アキフミ 大橋てつじ 田村泰二郎 ほか
2007年6月9日(土) ポレポレ東中野にてレイトショー公開
2007年/日本/カラー/ステレオ/ビスタサイズ/85分
1984年に「私の青空」でデビューし、大胆な性描写とシャープなセンスで問題作を発表し続けるマンガ家・山本直樹。愛とセックスに溺れる弱い人間たちが織り成す悲哀を、過激に、シニカルに、そしてときにユーモラスに描き、代表作「ありがとう」をはじめ数多くの作品が映画化されている。そして今回、短編集「テレビばかり見てると馬鹿になる」から、引きこもりの女性とカウンセラーとのやり取りを描いた表題作がついに映画化された。
マンガ「テレビばかり見てると馬鹿になる」は、ほぼすべてのコマを定点の視点で描いた異色作で、固定したコマ内の展開が演劇的でもあり、覗き見的でもあり、読者の想像をかき立てる独自の世界観を作っている。そのラジカルな世界観を見事に映像化したのが、邦画界の異端児・亀井亨。デビュー以来、奇抜な世界観を撮り続け、デビュー作『心中エレジー』ではアメリカ・シネマ・パラダイス映画祭最優秀作品賞受賞など、海外映画祭で多数受賞している。強烈な個性を持つふたりのクリエイターが、現代人の抱える闇を赤裸々にする。
引きこもりのヒロイン・有紀を演じるのは人気AVアイドルとして君臨し、その端麗な容姿で女優業などもこなす穂花(ほのか)。体当たりの演技で、現代の男女の性と「引きこもり」という心の暗部を体現。有紀のもとを訪れる青年・伊藤役には『長州ファイブ』『虹の女神 Rainbow Song』の三浦アキフミ。現代の青年をリアルに演じ、情報過多が引き起こす問題を浮き彫りにしてみせる。物語のキーパーソンとなるカウンセラーの馬戸役に『樹の海』『夜を掛けて』の田村泰二郎。貫禄のある演技で、山本マンガの登場人物が持つユーモアを見事に表現。本作に豊かな奥行きを与えた。
本作は、現代人が抱える心の闇を赤裸々にすることで社会に問題定義をすると同時に、きわめて野心的なエンターテイメントとして、観るものに強烈なイメージを残す、まさにアンビバレンツな映画といえる。
- 穂花
- 三浦アキフミ
- 大橋てつじ
- 松田信行
- 中谷千絵
- 田村泰二郎
- 企画・製作:永森裕二
- プロデューサー:黒須功
- 原作:山本直樹「テレビばかりみてると馬鹿になる」
- 撮影:中尾正人
- 照明:中村拓
- 録音:古谷正志
- 美術:西村徹
- 音響効果:丹愛
- 助監督:岡元太
- 衣裳:杉本京加
- ヘア・メイク:堀川なつみ
- スチール:奥川彰
- スペシャルサンクス:川野浩司/野尻克己(劇団「天然工房」)
- 監督・脚本・編集:亀井亨
- 配給・宣伝:バイオタイド