
『VERSUS』『休暇』など、日本映画界で比類なき個性を発揮する俳優であり、短編『終着駅の次の駅』、長編デビュー作『GROW −愚郎−』で、監督としても高い評価を得ている榊英雄。待望の監督最新作となるのが『ぼくのおばあちゃん』だ。
家族と過ごす時間もない忙しい日々を送るひとりの営業マン。仕事である家庭と関わる中で、大好きな“おばあちゃん”と過ごした少年のころを思い出す――。主人公の少年時代と現代を織り交ぜ、それぞれの時代の家族の姿を描くことで、“家族の絆”の持つ意味を改めて問いかける感動作が、ここに誕生した。
主人公の“おばあちゃん”を演じるのは、日本を代表する女優である菅井きん。長いキャリアで膨大な作品に出演してきた菅井だが、映画で主演をつとめるのは本作が初めて。82歳にしての映画初主演で、まさに“にっぽんのおばあちゃん”というべき佇まいを見せる。
そしてもうひとりの主人公である、孫の智宏の成長した姿を演じるのは、岡本健一。近年は舞台をおもな活動の場にしてきた岡本にとって、本作は『あいつ』以来、実に17年ぶりの映画主演となった。
そのほか、柳葉敏郎、原日出子、加藤貴子、阿部サダヲ、清水美沙、寺島進、宮川一朗太、津田寛治、石橋蓮次など、豪華な実力派キャストが脇を固める。また、智宏の少年時代を演じるふたりの子役、吉原拓弥と伊澤柾樹の演技も見逃せない。
イラストレイター・詩人のなかむらみつるの原作を、『終着駅は次の駅』でもタッグを組んだ亀石太夏匡と榊監督が脚本化。榊監督の公私にわたるパートナーである榊いずみが『GROW −愚郎−』に続いて音楽を担当している。
智宏の少年時代は、いまだに昭和の面影を残す愛媛県大洲市で撮影。郷愁を誘う風景の中で綴られるおばあちゃんと孫の物語は、世代を問わず人々の心に感動を呼び起こすに違いない。

村田智宏(岡本健一)は、住宅建設会社のトップ営業マン。現在、茂田夫妻の新居作りに取り組んでいる。茂田家の妻・美佐子(清水美沙)は、義父の源次郎(石橋蓮司)を老人ホームに入居させ、夫妻と子供で住む家を建てたいと主張しているが、夫の洋一(阿部サダヲ)は、いまひとつはっきりした態度をとらない。険悪なムードになる夫妻の傍らで、源次郎に懐く孫のタケシを見て、智宏は自分の少年時代を思い出す。
撮影所で結髪の仕事をしていたおばあちゃん(菅井きん)の影響で、時代劇が好きだった子供のころの智宏(伊澤柾樹)。オモチャの刀を振り回して遊ぶ智宏をおばあちゃんは誰より可愛がり、商店街の人たちもあたたかく接してくれた。父の征二(柳葉敏郎)は入退院を繰り返し、母の千恵子(原日出子)も征二に付き添うことが多かったため、智宏はおばあちゃんと過ごすことが多かった。父親が退院して、家族4人で過ごす時間は、かけがえのない想い出として刻みつけられていくのだった。
子供のころを思い出しながらも、仕事に没頭する智宏。親身に客の立場になって考えるゆえに、妻の絵美(加藤貴子)や息子の雄太と過ごす時間は少なくなっていく。なんとか雄太の授業参観に行く時間を作り出したものの、茂田家で起きたトラブルに駆けつけ、小学校に着いたのは授業が終わったころだった。淋しそうな雄太に、言葉もない智宏。
智宏が子供のころ、父や母の代わりに授業参観に来てくれるのはおばあちゃんだった。いつも優しいおばあちゃんを、智宏はずっと守ると誓ったのだった。そして征二を失いつつも、智宏と母親、おばあちゃんは哀しみを乗り越えていった。
やがて中学生となった智宏(吉原拓弥)。母とおばあちゃんとのつつましくも明るい暮らしに、大きな変化が訪れようとしていた……。