幼いころに両親を亡くし、孤児院で育った立花アキラ(柏原収史)。現在は工場で働くアキラは、工場の社長・木下(朱源実)から歪んだ愛情を向けられていた。そして工場の外では、1回数万円で刑事の福田(佐野和宏)の相手をしている。アキラの中には鬱屈した思いがたまっていた。
そんなある日、バイクを飛ばしていたアキラは、赤いワンピースの女をはねてしまう。気を失った女を自宅へと連れ帰り看病するが、目覚めた女は何も言わずに立ち去っていった。それが、アキラと山本香里(あんず)の出会いだった。
その数日後、香里は忘れたバッグを取りにアキラの部屋を訪れる。アキラはいつになく心を開いて香里に話しかけるが、香里が部屋に入るのを見かけた福田が玄関の外で様子を窺っていた。
やがて、夫がアキラに対して抱く感情に気づいた木下の妻(村松恭子)は、アキラを首にする。しかし、アキラに未練のある木下は、アキラの部屋まで押しかけてきた。言い争ううち、アキラはこれまで木下から受けた仕打ちへの怒りを爆発させ、倒れた木下に落ちた包丁が刺さってしまう。怯えたアキラは、部屋にやってきた香里と衝動的に結ばれる。そして……。
どこに行くの?
監督:松井良彦
出演:柏原収史 あんず 佐野和宏 ほか
2008年3月1日(土)よりユーロスペースにてレイトショー
2007年/カラー/HD/ステレオ/16:9/100分
伝説のカルトムービーとなった『追悼のざわめき』の発表後、長い沈黙に入った映画監督・松井良彦。2007年、『追悼のざわめき』がデジタルリマスター版として蘇ったのに続き、ついに新作『どこに行くの?』を携えて、孤高の映画作家が復活を遂げる。
デビュー作『錆びた缶空』以来、松井が一貫して描いてきたのは、疎外されている人間である。本作『どこに行くの?』で松井が選んだ“疎外”のかたちは、同性愛。しかし、そこで描かれるのは、実に純粋な恋愛の物語だ。松井自身はこの作品を「ひじょうにかわいらしい青春ラブストーリー」だと語る。
主人公・アキラを演じるのは『月の砂漠』『カミュなんて知らない』などの柏原収史。端正な顔立ちと精細な表現力で、日本映画界になくてはならない若手実力派だ。アキラの相手役となるヒロイン・香里に抜擢されたのは新人のあんず。新宿で人気のニューハーフである。本作では、映画初出演ながら、ミステリアスなキャラクターの苦悩と葛藤を見事に体現した。そして『錆びた缶空』以降、松井映画には欠かせない存在である佐野和宏が、松井組の復活を象徴するような圧倒的な存在感を見せる。
特殊メイクと造形には、『追悼のざわめき』でキャリアをスタートさせ、いまや『妖怪大戦争』『叫』などを手掛ける日本の特殊メイク・造形の第一人者となった松井祐一。そして『追悼のざわめき』に熱烈な共感を寄せ、デジタルリマスター版で音楽を担当したミュージシャン・上田現が、エンディング・テーマ「水の記憶」を手掛ける。
この映画に登場する人間は、愛する者も、愛される者も、誰もがあまりに無防備で不器用だ。そして映画自体もまた、無防備で不器用だ。その無鉄砲な危うさに、観客は映画を創ることへのプリミティブな衝動を感じるとともに、第二期・松井良彦がここに幕を開けたことを確信するだろう。
- 柏原収史
- あんず
- 朱源実
- 村松恭子
- 三浦誠己
- 長澤奈央
- 佐野和宏
- 監督・脚本:松井良彦
- 企画:小林洋一/松井良彦
- 製作:宇田川和恵/多井久晃/松井建始/吉鶴義光
- エグゼクティブプロデューサー:小林洋一
- プロデューサー:大野敦子
- ラインプロデューサー:田中深雪
- 撮影:田辺司
- 照明:工藤和雄
- 録音:浦田和治
- 音響効果:岡瀬晶彦
- 美術:畠山和久
- 編集:宇賀神雅裕
- 音楽:上田現
- 特殊メイク・造形:松井祐一
- エンディングテーマ曲:「水の記憶」作曲・編曲・演奏 上田現
- 製作:「どこに行くの?」製作委員会(エースデュースエンタテインメント/ワコー/バイオタイド/ツイン)
- 制作プロダクション:ユーロスペース
- 配給:バイオタイド