
悲しい歴史を持つ街・広島。キャリアウーマンの響子は、この街で60年前の純粋でまっすぐな心を持つ青年軍人・亨と出会う――。
平和の街・広島。この街には第2次大戦の記憶がいまだに残っているが、同時に現在の広島は明るさを持った街である。これまで、いくつもの映画が広島を舞台として作られてきたが、その多くは重いテーマを扱った作品であった。そんな従来の広島のイメージではなく、明るい街を舞台にしたラブストーリーが観たい……。そんな地元の人々の想いから生まれたのが『恋する彼女、西へ。』である。
広島を舞台にした新感覚のストーリーを書き上げたのは、NHK朝の連続テレビ小説「さくら」をヒットさせ、2008年の大河ドラマ「篤姫」を手掛ける脚本家の田淵久美子。実際に広島に何度も足を運んで、広島の街の空気を感じた田淵が、街の明るさとやさしさをストーリーに込めた。その田淵渾身の脚本を『京極夏彦 怪 七人みさき』のほか、ドラマの演出も手掛ける酒井信行がメガホンをとり、見事に映像化した。
主人公・響子を演じるのは『カーテンコール』以来2年ぶりの映画出演となる鶴田真由。バリバリと仕事をこなすキャリアウーマンをいきいきと演じ、これまでと一味違ったラブシーンにも挑戦している。過去から現代へとやってきた軍人の矢田貝亨役には若き個性派である池内博之が扮し、状況の変化に戸惑いながら、懸命に自分の生きる道を探す姿を好演している。ほか、かとうかず子、辰巳琢郎、徳井優、金田龍之介、そして日本映画界の誇る名優・小林桂樹という充実したキャストが脇を固める。
主題歌は、ブルースバンド・憂歌団のボーカルとして活躍し、現在はソロシンガーとしても人気の木村充揮が歌う「小さな花」。“天使のダミ声”と称される木村のボーカルで歌い上げられるこの曲が、映画のエンディングを優しく飾る。
四季折々の平和記念公園をはじめ、市内を走る路面電車、市民球場など、広島の美しい風景が随所に織り込まれ、スクリーンいっぱいに展開している。

不動産開発会社で働く杉本響子(鶴田真由)は33歳。海外転勤の決まったカレからプロポーズされたのに、なぜか仕事を選んでしまった。周りにはろくな男もおらず、現在恋愛絶不調中。おまけに仕事でもトラブルに見舞われ、後輩男性社員の尻拭いで急遽、広島へと出張する羽目になる。
8月3日、出張先での仕事を一段落させ広島市内を歩く響子は、軍服姿の若い男が話しかけてくる。「ここはどこですか?」。様子のおかしな男をいぶかしがる響子だが、バイクと接触事故を起こした男を放っておけず、病院に連れていき治療費まで支払うことに。男は、海軍少尉の矢田貝亨(池内博之)と名乗り、昭和20年8月3日の広島からやってきたという。そんな突拍子もない話が信じられない響子だが、行く場所のない矢田貝をホテルの自分の部屋へと泊め、話を聞くうちに、徐々に信用しはじめる。
翌日、響子は新聞に60年前の慰問袋が路面電車の中で見つかったという記事をみつける。矢田貝も、路面電車に乗って母の見舞いに行く途中、まぶしい光に包まれて現代へ来たという。路面電車に時間を越える秘密があるのか?
元の時間に戻ろうとする矢田貝とふたりで過ごすうち、次第に矢田貝に惹かれていく響子。やがて元の時代に戻れる可能性が見つかるが、元の時代に戻れば矢田貝は原爆投下から逃れることはできない。それでも戻るという谷田貝。響子は必死で矢田貝を止めようとするのだが――。