平井(小林薫)は拘置所に勤務する刑務官。平井の勤務する拘置所には、死刑囚の金田(西島秀俊)が収容されていた。どこか掴みどころがない金田だが、いたっておとなしい男で問題を起こすこともない。平井は、新人刑務官の大塚(柏原収史)や定年を前にした坂本(菅田俊)、人望の厚い三島(大杉漣)ら同僚たちと、過度に馴れ合うことも、衝突することもなく、淡々とした日々を送っていた。
独身のまま歳を重ねていた平井だったが、姉の美佐子(りりィ)が持ってきた縁談を断りきれず、その相手と1度会うことになった。相手の美香(大塚寧々)は、離婚経験があり、いまは派遣社員をして息子の達哉(宇都秀星)と暮らしている女性。決して多くの言葉を重ねたわけではないが、その会合で平井と美香の結婚は決まったような雰囲気になった。やがて、結婚へ向けて披露宴の相談など具体的な話が進んでいく。だが、達哉はいつまで経っても平井に打ち解けようとはしなかった。そして、半年前の母の葬儀などで有給を使い果たしていた平井は、結婚のため休暇を取ることはできず、3人での旅行もかなわないことだった。
平井と美香の披露宴を週末に控えたある日、処遇部長の池内(利重剛)から刑務官たちに、金田の刑が2日後に執行されることが告げられる。刑の執行の際に刑務官が果たすさまざまな仕事。その中で、落ちてきた身体を支える“支え役”を務めた者には、1週間の休暇が与えられるという。その日、平井は新しい“家族”と生きるため、ある決断を下すのだった……。
休暇
監督:門井肇
出演:小林薫 西島秀俊 大塚寧々 大杉漣 ほか
2008年6月7日(土)より有楽町スバル座ほか全国ロードショー
2008年/35mm/カラー/ビスタサイズ/115分
死刑囚の収容された拘置所に勤務する刑務官。彼らは、仕事として人の“死”と向き合わざるを得ない。そんな彼らにも日常があり、その中で小さな幸せを得ようとしている。文豪・吉村昭の短編小説を原作とした『休暇』は、結婚を間近に控えながら人の“死”に加担したひとりの刑務官を主人公に、彼の苦悩と、周りの人々との絆の中で見出す幸福を描いていく人間ドラマだ。
主人公の刑務官・平井を演じるのは『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』『歓喜の歌』の小林薫。不器用で寡黙な男が秘める複雑な心理を実感たっぷりに見せるその名演は、この作品を小林の代表作と呼ぶにふさわしい。死刑囚の金田を演じるのは『Dolls ドールズ』『好きだ、』の西島秀俊。常に“死”を身近に感じつつも、心の内をあらわにしようとはしない青年を、独特の存在感をもって表現している。平井の妻となる美香は『HERO』の大塚寧々が演じ、本能的な優しさを秘めた女性像を体現している。そして、幹部刑務官・三島に大杉漣、新人刑務官・大塚に柏原収司、定年を控えた刑務官・坂本に菅田俊、上司である処遇部長の池内に利重剛。若手からベテランまで、日本映画界きっての実力派俳優陣の見せる演技は圧巻だ。
監督は、デビュー作『棚の隅』がモントリオール世界映画祭出品を果たした新鋭・門井肇。人の心の奥深さを表現する演出で、困難なテーマを巧みに作品へと昇華してみせた。脚本には監督作『まだ楽園』で注目された佐向大、撮影に『サウスバウンド』の沖村志宏、編集に『バッシング』の金子尚樹といった充実のスタッフ陣に加え、元刑務官で『刑務所の中』『13階段』にも参加した坂本敏夫がアドバイザーをつとめ、リアルな描写を追求している。
人の生死と幸福。『休暇』はそんな深遠なテーマに真摯に向き合いつつも、あくまで等身大の人々の生活を、静かに見つめ続ける。その穏やかで優しい眼差しは、観る者の心に深い感動を呼ぶに違いない。
- 平井透:小林薫
- 金田真一:西島秀俊
- 美香:大塚寧々
- 三島達郎:大杉漣
- 大塚敬太:柏原収史
- 坂本富美男:菅田俊
- 池内大介:利重剛
- 古木泰三:谷本一
- 達哉:宇都秀星
- 久美:今宿麻美
- 南雅子:滝沢涼子
- 教誨師:榊英雄
- 美佐子:りりィ
- 監督:門井肇
- 原作:吉村昭「休暇」(中公文庫版「蛍」所載より)
- 製作:野口英一/小池和洋
- 製作顧問:足立喜之
- プロデューサー:赤間俊秀
- 脚本:佐向大
- 撮影:沖村志宏
- 照明:鳥越正夫
- 美術:橋本千春
- 録音:沼田和夫
- 編集:金子尚樹
- 助監督:高橋雄弥
- 刑務関係アドバイザー:坂本敏夫
- 音楽:延近輝之
- 製作:「休暇」製作委員会(山梨日日新聞社/山梨放送/リトルバード)
- 配給:リトルバード