
いま、日本の伝統芸能である落語が若い世代からも人気を集めている。ふたたび落語ブームの兆しが見える中、落語に青春をかける女性の成長物語と“禁断の落語”をめぐるミステリーを絡めた映画『落語娘』が登場する。
落語ファンからも高い評価を受けた永田俊也の同名小説を、『陰陽師』の江良至が脚本化。『櫻の園』『12人の優しい日本人』などで知られる中原俊が、テンポ良い演出で良質のエンターテイメントに仕上げた。劇中で語られる落語「緋扇長屋」を俳優の演じるドラマとして見せる趣向にも注目だ。
ひたむきに落語に情熱を向けるヒロインの香須美を演じるのは、『着信アリ2』『この胸いっぱいの愛を』以来、約3年ぶりの映画主演となるミムラ。本作では、これまでのイメージとは異なった気風のいい女性を好演。練習を重ねた落語も劇中で披露している。
香須美の師匠である破天荒な噺家・三々亭平佐(さんざんてい・へいざ)には津川雅彦。監督・マキノ雅彦として落語を題材とした『寝ずの番』を手がけるなど、落語にも深い知識を持つベテランが、見事な存在感で落語界の異端児を飄々と演じる。
そして、平佐と対照的な正統派噺家で落語界のリーダー的存在の三松屋柿紅(みまつや・しこう)を演じる益岡徹をはじめ、伊藤かずえ、絵沢萌子、利重剛、なぎら健壱、森本亮治など、ベテランから若手まで多彩なキャストが作品を彩る。さらに、人気落語家の春風亭昇太が特別出演しているのも見逃せない。
柳家喬太郎、隅田川馬石、柳家喬之助といった現役落語家が監修にあたり、これまでになくリアルに落語界を描写した『落語娘』。ここ数年、落語に材をとった映画が多く作られる中、まさに真打となる作品の登場だ。

香須美(ミムラ)は、二ツ目昇進を目指して日々奮闘する落語家の卵。12歳のときに叔父さん(利重剛)の影響で落語の魅力にとりつかれた香須美は、ひたすら落語に励んできた。
大学時代に学生落語のコンクールを総ナメし、叔父さんの贔屓だった古典の名手・三松屋柿紅(みまつや・しこう:益岡徹)の門を叩いた香須美だったが、入門を断られてしまう。そのとき声をかけてくれたのが、今の師匠の三々亭平佐(さんざんてい・へいざ:津川雅彦)。こうして前座の“三々亭香須美”となったものの、古いしきたりの残る落語界だけに、上下関係や男女差別で苦労する毎日。おまけに平佐は落語界の問題児で、香須美は寄席でも肩身が狭い。ろくに稽古もつけてくれないどころか、遊びでこさえた借金を押し付けてくる平佐に、香須美の悩みは絶えることがない。
ある日、落研の後輩でスポーツ紙の記者をしている清水(森本亮治)が、気になる話を持ってくる。平佐が“禁断の落語”「緋扇長屋」に挑むという噂があるというのだ。関わった噺家が次々と怪死を遂げたために封印された、曰くつきの噺だ。どうやらテレビ局のプロデューサー・古関(伊藤かずえ)が平佐に持ちかけた企画らしい。香須美の心配をよそに、平佐は乗り気で準備を進める。
やがて平佐の挑戦は落語界を巻き込む騒動に発展し、香須美も大きな決断を迫られることに。ひたむきに落語を愛する“落語娘”の運命はいかに?