木室創(長門裕之)は、映画を専門とする学校・NK学院長に就任した。木室は、学院の学生のひとり・村上大輔(井上芳雄)のことがなにかと気にかかっていた。左腕にモンローの刺青を入れ、常におどけているように見えるが、どこか陰のある独特の雰囲気を持つ青年だった。
60年前の戦争で、自分たちのような若者が大勢死んでいったことの不条理さに苛立つ大輔は、その時代を生きた木室にその想いをぶつけていく。その過去を背負ったまま老いを迎えていた木室も、痛々しいほど激しい若者の慟哭に自らの青春を重ねて共鳴していく。
そんな木室の前に、木室を描きたいという女性が現われる。その銅版画家の中埜潤子(宮沢りえ)は、木室が若き日に淡い恋心を抱いた女性によく似ていた。
木室の妻・エミ子(有馬稲子)も、60年前に大切な人を亡くし、生き残ってしまったという思いからいまだに抜け出せずにいた。
そんな中、大輔は精神を病み、学院を去っていく。学院を中退した大輔は、木室と交わす手紙の中で、自殺をほのめかす。大輔のほんとうは生きたいという魂の叫びを感じた木室は、なんとか大輔を思いとどまらせようと手を尽くそうとする。そして木室夫妻にもある変化が訪れていく……。
夢のまにまに
監督:木村威夫
出演:長門裕之 有馬稲子 井上芳雄 ほか
2008年10月18日(土)より11月14日(金)まで岩波ホールにて特別上映
2008年/35mm/カラー/ビスタ/106分
日本映画美術界の重鎮・木村威夫。鈴木清順、熊井啓、黒木和雄などかずかずの名監督の作品に参加し、90歳を迎えたいまもなお、現役の美術監督として活躍している。2004年に中編『街』で監督デビューして以来、3本の中編作品を送り出してきた木村威夫が、90歳を迎えた2008年、自身の小説を原作とした待望の初長編監督作『夢のまにまに』を完成させた。
映画学校の学院長・木室創と、学生・村上大輔の世代を越えた交流と、そこで浮き彫りになる木室と妻の過去。木村威夫の決定的体験となった戦争を見据えながら、老いと若さ、男と女、生と死を、象徴的に目くるめく映像美で表現していく。
この記念すべき長編監督デビュー作に、各界から豪華なスタッフとキャストが集結した。
題字は『北の零年』『春の雪』などの題字を手がける書道家の武田双雲。衣装デザイナー・スタイリストは映画、舞台、広告と多岐に渡り活躍する伊藤佐智子。
木村監督自身の分身といえる主人公・木室創には、大ベテランの長門裕之が実に46年ぶりとなる主演をつとめる。その妻・エミ子には、7年ぶりの映画出演となる有馬稲子が迫真の演技を見せる。そして木室創と魂をかよわす学生・村上大輔には、ミュージカル界のプリンスと呼ばれる井上芳雄が『ハミングライフ』に続き2作目の映画出演を果たし、渾身の演技を見せる。
さらに若き日の木室を見守る飲み屋のママと現代の木室を描く銅版画家の二役を演じ、若き日の木室に永瀬正敏、若き日のエミ子に上原多香子、闇屋に浅野忠信、大輔の母に桃井かおり。そのほか、葛山信吾、南原健朗、高橋和也、エリカ、小倉一郎、鈴木清順など、個性豊かで魅力的なキャストが顔を揃えた。さらに、昨年急逝し、これが遺作となる能楽師の観世榮夫が、作品に重厚さを与えている。
90歳の新人監督が送る『夢のまにまに』は、過去・現在・未来を結ぶ人間絵巻。木村の自伝的要素を含む、ヒューマンストーリーだ。
- 長門裕之
- 有馬稲子
- 井上芳雄
- 永瀬正敏
- 上原多香子
- 葛山信吾
- 南原健朗
- 高橋和也
- エリカ
- 浅野忠信
- 小倉一郎
- 鈴木清順
- 観世榮夫
- 宮沢りえ
- 桃井かおり
- 監督:木村威夫
- 原作:木村威夫「87×26の瘤広場」(ストイケイオン18号より)
- 製作:鈴木ワタル/尾越浩文/大橋孝史
- プロデューサー:磯田修一
- ラインプロデューサー:甲斐浩
- 脚本:山田英樹/我妻正義/木村威夫
- 撮影・編集:白尾一博
- 照明:白岩正嗣
- 録音:北村峰晴
- 美術:林隆
- 衣装デザイン:伊藤佐智子
- スクリプター:堀北昌子
- ヘアメイク:小堺なな
- 監督補:北川篤也
- 助監督:岸川正史
- 制作担当:櫻井健作
- 題字:武田双雲
- スチール:遠崎智宏
- 音楽:川端潤
- 協力:日活芸術学院/岩波ホール
- 製作:パル企画/ポニーキャニオン/トルネード・フィルム
- 配給:パル企画