
生の舞台の魅力をより多くの人々に届ける新しいエンターテイメントとして、ソニー株式会社が展開する“Livesphere(ライブスパイア)”は、浅田次郎の小説を舞台化した『音楽座ミュージカル「メトロに乗って」(映画館上映特別版)』、若手俳優が演技とダンスで魅せる『FROGS on Screen』、日本では鑑賞の機会の少ない英国オペラ『UKオペラ@シネマ』と、これまでに3作品を公開してきた。そして同プロジェクトの第4弾として、絶大な人気を誇る演劇集団キャラメルボックスの『嵐になるまで待って』が登場する。
『嵐になるまで待って』は、キャラメルボックスの作品の中でも異彩を放つサイコサスペンスであり、1993年の初演以来、4度にわたり再演されてきた人気作品だ。自分の声が嫌いなヒロイン・ユーリと、“もうひとつの声”を持つ男・波多野のふたりの攻防を軸にしたスリルあふれる作品となっている。また、劇中に手話が大きな役割を果たしているのが特徴であり、キャラメルボックスの特色のひとつであるダンスシーンにも手話が取り入れられている。
キャラメルボックス代表である細井豊の原作・脚本・演出による2008年8月の公演を、8台の高性能カメラで撮影。『FROGS on Screen』も手がけた映像作家・佐藤克則が映像監督をつとめ、Livespire第4弾『嵐になるまで待って』は完成した。
生の舞台では見ることが難しい俳優の細かな表情や息づかい、そして映像ならではサスペンスフルな演出。新たな映像エンターテイメントとして『嵐になるまで待って』はスクリーンに登場する。

台風17号が東京を過ぎ去っていった日の夜。精神科医の広瀬教授(西川浩幸)の研究室を雪絵(温井摩耶)が尋ねてきた。雪絵は広瀬に1通の手紙を託すと去っていく。台風が去ったいまでも、広瀬の心の中には嵐が続いていた。その嵐を起こしたのは、雪絵。広瀬は、雪絵と出会うきっかけとなった事件を振り返りはじめる――。
声優学校に通うユーリ(渡邊安里)は、新しく始まるテレビアニメのオーディションにやって来た。ユーリは子供のころから声楽を習っていたが、特徴のある自分の声が嫌いで声楽を諦め、自分の声を個性として活かせる声優を志したのだ。緊張のためいくつも失敗するが、ユーリの声の演技にディレクターは惹きつけられ、その夜、ユーリのもとに合格の電話が入った。
オーディションの翌日、さっそくおこなわれる打ち合わせ。そこには、ディレクターや主演をつとめる俳優の高杉(石原善暢)に加え、音楽を担当する作曲家の波多野(細見大輔)も、姉で聾者の雪絵を伴ってやってきていた。しかし、なにか因縁のあるらしい高杉と波多野は、打ち合わせの席で激しい口論を始めてしまう。やがて興奮した高杉は雪絵にも詰め寄っていくが、波多野の「やめろ!」という叫び声に、急に態度を変えて立ち去っていく。しかしそのとき、ユーリにだけは、波多野が発した“もうひとつの声”が聞こえていたのだった。
その次の日、収録を控えてのレッスンがおこなわれるが、高杉は姿を見せなかった。そして――。