Beauty うつくしいもの
監督:後藤俊夫
出演:市川孝太郎 市川愛之助 麻生久美子 ほか
2009年3月14日(土)、銀座シネパトス、シネマート六本木ほか公開
2007年/カラー/ビスタサイズ/DTS/109分

日本の伝統芸能である歌舞伎は、専門の俳優によって演じられるだけではなく、村の人々たちが祭りの奉納行事や娯楽として上演する“村歌舞伎”も各地で綿々と受け継がれてきた。
『Beauty うつくしいもの』は、長野県の天竜川に沿った伊那谷を舞台に、この地方で2世紀以上にわたり受け継がれてきた村歌舞伎に生涯を捧げた男・半次と、その舞台上の伴侶というべき花形役者・雪夫の80年にわたる絆を軸に展開していく。
この作品に、歌舞伎界と映画界から人気と実力を兼ね備えるキャストが集った。
主人公・半次には、スティーヴン・スピルバーグ監督作品『太陽の帝国』で映画デビューを飾り、ドラマ「白い巨塔」などへの出演でも知られる上方歌舞伎の名門・松嶋屋の片岡孝太郎。雪夫には、同じく松嶋屋でNHKドラマ「新撰組!! 土方歳三最期の一日」など、歌舞伎以外にも活躍の場を広げる片岡愛之助。劇中でふたりが演じる「新口村(にのくちむら)」は、映画の物語とも重なり合い、完成された美しさを見せる。
ふたりの幼馴染み・歌子には、日本映画界には欠かせない存在の麻生久美子。さらに串田和美、赤塚真人、井川比佐志、北村和夫ら名優が脇を固めて映画の奥深さを深める。また、十五代片岡仁左衛門が特別出演に加え作品の題字も手がけている。
監督は人間と自然を描き続けてきた『イタズ』『オーロラの下で』などの後藤俊夫。音楽は数多くの作品を手がける作曲家・小六禮次郎。劇中の舞のオリジナル振付を手がけたのは宗家藤真流の藤真勘十郎。豪華なスタッフが集結し、見応えのある重厚な世界を作り出した。

昭和10年。半次(少年時代・高橋平)の暮らす長野県伊那路村では、村の人々による村歌舞伎が受け継がれていた。半次は、自分と変わらぬ年頃の少年・雪夫(少年時代・大島空良)が舞う「天竜恋飛沫」に心を奪われる。半次が歌舞伎に興味を持ったことを知り、雪夫は半次の祖父(井川比佐志)に頼み込み、半次を歌舞伎の世界へと誘っていく。
ある日、雪夫の相手役をつとめる歌子(少女時代・兼尾瑞穂)がはしかにかかり稽古に出られなくなってしまった。雪夫は歌子の代わりに半次を相手役に選び、半次が女形を演じての初めての舞台となった「新口村(にのくちむら)」は大成功を収めた。
そして年月は流れ、昭和19年。戦時中にあっても村歌舞伎の灯は絶えずに残っていた。あの初舞台以来、半次(片岡孝太郎)は雪夫(片岡愛之助)の相手役を演じ続け、ふたりは村歌舞伎の看板役者となっていた。半次に雪夫の相手役の座を奪われたことになる歌子(麻生久美子)も「3人でいるのが一番楽しい」と、半次と雪夫をあたたかく見守っていた。
しかし、のどかな村からも兵隊として、満蒙開拓団として働き手が駈り出されていった。そしてついに、半次と雪夫のもとにも召集令状が届いた。戦地に赴いた半次と雪夫は、終戦を迎えたのちもシベリアの強制収容所で過酷な労働の日々を送る。やがて雪夫は病に侵され、半次との別れのときが来る……。
厳しい抑留生活を耐え、ひとり帰国を果たした半次。ふたたび村歌舞伎の舞台へと戻った半次が演じるのは、かつて雪夫が演じ続けていた役であった。
さらに数年が過ぎたころ、半次は遠く離れた村に、伊那谷にだけ伝わる芝居を演じる役者がいることを知る……。