
夏の終わり、山間の小さな村。普段は平凡な日々が過ぎていくはずのこの村に、異変が起こっていた。診療所の医師・伊野(笑福亭鶴瓶)がいなくなってしまったのだ。村人たちが不安がる中、刑事の波多野(松重豊)と岡安(岩松了)が捜査に派遣されてくるが、波多野は田舎暮らしに嫌気がさしてトンズラしただけでは、と高をくくっている。やがて見つかる、脱ぎ捨てられた伊野の白衣。若い研修医の相馬(瑛太)は、そのそばの田んぼを必死になって探し回っていた。
その約2ヶ月前。相馬は真っ赤なオープンカーを走らせていた。東京の医大を卒業し、都会から遠く離れた神和田村で研修をつとめることになったのだ。ところが慣れない田舎道で事故を起こしてしまった相馬は、気がつくと診療所のベッドの上。目を覚ました相馬に、白衣を着た関西弁の中年男が「伊野でございます」と微笑む。これが伊野と相馬の出会いだった。
小さな診療所でひっきりなしに訪れる老人たちの診察をし、連絡があれば夜中であっても往診に駆けつける。独居老人の家を訪問して健康チェックもおこなう。看護師の大竹(余貴美子)とふたりだけで、村の健康を一手に引き受ける伊野。村人たちは伊野を心から信頼し、村長は無医村だったこの村に伊野を連れてきたことがなによりの自慢だ。最初は都会とはあまりに違った生活に戸惑っていた相馬も、伊野とともに診療をおこなう中で村に馴染んでいき、伊野に心酔していく。
そんなある日、村に住む鳥飼かづ子(八千草薫)が倒れてしまった。駆けつけた伊野は診察をすると、暑さのせいだろうとあっさりと席を立つ。ところがその夜、伊野は相馬や大竹に知らせず、ひとりだけでかづ子の家を訪ねた……。