1970年代初頭。安部眞一(水橋研二)は、恋人の美代子(町田マリー)と阿佐ヶ谷で同棲生活を送っていた。九州・福岡の田川から上京してきた眞一は美代子をモデルに漫画を描き、その作品は雑誌「ガロ」に掲載されるようになっていた。
阿佐ヶ谷には、眞一と同郷の友人・川本(本多章一)も暮らしていた。小説家を自称する川本や、共通の友人の池田(松浦祐也)、美代子の友人の真知子(あんじ)たちとのかかわりの中で、作品の糧を探し出そうとする眞一。
自分の体験をもとに作品を描くという信念を持つ眞一は、創作の苦悩に神経をすり減らしていく。そして眞一は真知子と関係を持ち、さらに美代子に好意を持っている川本に自分の見ている前で美代子を抱くように強要する。だが、その行動は眞一に予想以上の罪の意識をもたらすことになる。
ある日、眞一に目をかけている「ガロ」の編集者・松田(佐野史郎)が、眞一と美代子が暮らす阿佐ヶ谷の部屋を訪れるが、部屋は空っぽになっていた。創作に息詰まった眞一は故郷の田川へと戻り、美代子と結婚式を挙げたのだった。
1980年。眞一は埼玉県に居を構え、ふたたび執筆活動をおこなっていたが、その作品には宗教への傾倒とアルコール依存症による妄想が色濃くなっていた。やがて眞一は奇行に走り、行方をくらます。
松田は、眞一の音信が途絶えたのちも、稀有な才能を持つ安部眞一という漫画家を諦めきれずにいた。そんな松田に「ガロ」編集長(林静一)が差し出したのは、眞一の現在の連絡先の記された名刺だった――。
美代子阿佐ヶ谷気分
監督:坪田義史
出演:水橋研二 町田マリー 本多章一 佐野史郎 ほか
2009年7月4日(土)、シアター・イメージフォーラムにてロードショー
日本のサブカルチャーに多大な影響を与えた伝説の漫画雑誌「ガロ」。1970年代、同誌において次世代の作家として注目を集めた漫画家がいた。阿佐ヶ谷に居を構えた彼の名は、安部眞一。
「ガロ」で活躍したつげ義春や永島慎二が開拓した 、自らの私生活そのものを題材にした“私漫画”の黎明期を引き継いだ安部は、恋人であり、のちに妻となる女性・美代子をモデルに多くの短編を描いていった。映画『美代子阿佐ヶ谷気分』は、安部の代表作である同名の短編をはじめ、「阿佐ヶ谷心中」「天国」「猫」「悲しみの世界」など、多くの短編を映像として描き出し、天才と呼ばれた私漫画家の実像に迫っていく。
安部眞一を演じるのは、いまや若手実力派俳優として日本映画には欠かせない存在となった水橋研二。執眞一の恋人であり、妻となる運命の女性・美代子を演じるのは、劇団・毛皮族の看板女優であり、映画・ドラマにも活躍の場を広げる町田マリー。共演には、本多章一、松浦祐也、あんじら若手俳優陣に加え、「ガロ」にも造詣の深い俳優・佐野史郎。さらに、安部が影響を受けたと語るイラストレーターで漫画家の林静一を筆頭に「ガロ」ゆかりの人々が大勢出演しているのも注目だ。
監督は、大学在学中に制作した「でかいメガネ」が2000年にイメージフォーラムフェスティバルグランプリを受賞し、映画の美術スタッフやCM、ミュージックビデオ、ビデオ作品の演出などをつとめてきた坪田義史。本作が初の劇場監督作品となる。また、主題歌をロックバンド・SPARTA LOCALSが担当し、ドラマティックに作品を彩っている。
- 水橋研二
- 町田マリー
- 本多章一
- 松浦祐也
- あんじ
- 三上寛
- 林静一
- 佐野史郎
- 監督:坪田義史
- 原作:安部愼一「美代子阿佐ヶ谷気分」(ワイズ出版刊)
- 脚本:福田真作/坪田義史
- 製作総指揮:岡田博
- プロデューサー:白尾一博/宮下昇
- 撮影監督:山崎大輔
- 撮影:与那覇政之
- 照明:高橋拓
- 美術:田中浩二/尾崎雅朗
- 録音:斉木琢磨
- 編集:白尾一博/坪田義史
- 主題歌:SPARTA LOCALS 『水のようだ』
- 製作・配給:ワイズ出版