
“月舟町”という名前の町。その十字路に“つむじ風食堂”はあった。
ある夜、「私」(八嶋智人)は、初めて“つむじ風食堂”を訪れる。店内では、帽子屋の桜田さん(下條アトム)が、不思議な話をしていた。“二重空間移動装置”の説明をする帽子屋さん。その“装置”をただの万歩計だと指摘するきつい口調の女性・奈々津さん(月船さらら)。古本屋の親方(田中要次)や、果物屋の青年(芹澤興人)も加わってのやりとりを、「私」は、注文したクロケット定食を食べるのも忘れて眺めるのだった。やがてほかの客が帰った店内。支払いを済ませ店を出ようとした「私」は、食堂の窓の外にコペンハーゲンの海岸を歩く帽子屋さんの姿を見た気がした……。
「私」の父親(生瀬勝久)は手品師だった。舞台を終えた父に連れられ、子供のころの「私」はタブラさん(スネオヘアー)と呼ばれるマスターがエスプレッソを入れてくれる珈琲店をよく訪れていた。そして成長した「私」が人工降雨について研究を始めたころ、父はこの世を去った。
現在、「私」は雨降りの歴史について研究しつつ、注文に応じて雑文を書いて暮らしている。たびたび“つむじ風食堂”を訪れるようになった「私」は、帽子屋さんや果物屋の青年、古本屋の親方とも顔馴染みになっていく。
そしてある日、「私」と同じ月舟アパートメントに暮らす奈々津さんが「私」の部屋を訪れる。売れない女優の奈々津さんは、帽子屋さんから「私」が学生のころ劇の台本を書いていたと聞いて、自分の出るお芝居の台本を書いてほしいと頼みに来たのだった……。