
昭和41年6月30日に、静岡県清水市で起こった一家4人放火殺人事件。逮捕された男性は裁判で容疑を全面否認、死刑が確定した現在も、冤罪を訴え再審請求がおこなわれている。この事件は男性の名から「袴田事件」と呼ばれている。
『BOX 袴田事件 命とは』は、この実在の「袴田事件」を題材にした映画である。映画は、捜査や取調べのあり方に疑問を抱きつつ主任判事として有罪判決をくださざるを得なかった裁判官の苦悩に焦点をあて、「人が人を裁くこと」の意味を問う、硬質な人間ドラマとなっている。
社会から大きな注目を集めるこの題材に挑んだ監督は、『禅 ZEN』や『光の雨』『TATOO<刺青>あり』などの高橋伴明。裁判員制度が実現した現代だからこそ、改めて人を裁くことの困難さを訴えたいとの想いを込めてメガホンをとった。
裁判官・熊本典道を演じるのは、2度にわたり日本アカデミー賞助演男優賞に輝く萩原聖人。『光の雨』以来の高橋監督作となる本作では、作品のテーマとなる熊本の葛藤や苦しみを力のある演技で見事に表現している。
そして、無実を主張しながら死刑判決をくだされる袴田巖役は『ゲルマニウムの夜』『蘇りの血』『ケンタとジュンとカヨちゃんの国』などの個性派・新井浩文が、その圧倒的な存在感で演じている。
そのほか、葉月里緒奈、村野武範、保阪尚希、ダンカン、雛形あきこ、大杉漣、國村隼、岸部一徳、塩見三省、石橋凌など、日本映画界の誇る豪華俳優たちが、映画の企画に賛同して出演する。
豪華スタッフ・キャストにより、人の命の重さを真正面から描く傑作がここに誕生した。

大学卒業後、司法試験を経て裁判官となった熊本典道(萩原聖人)。プロボクサーに挫折し、静岡県の味噌工場で働く袴田巖(新井浩文)。同じ昭和11年生まれのふたりは、互いの存在を知ることもなく、それぞれの人生を生きてきた……。
昭和41年6月30日未明。静岡県清水市内の味噌製造会社専務の家で火災が発生し、焼け跡から一家4人の遺体が発見された。遺体の状況から、何者かが一家4人を刺したあと、家に火を放ったものと思われた。
事件発生直後から、警察は被害者の会社の工場で働く袴田巖に疑いの目を向けていた。そして8月18日に袴田は強盗殺人・放火・窃盗容疑で逮捕され、9月9日、起訴された。この事件で主任判事をつとめることになったのが、静岡地方裁判所に赴任してきた熊本正典であった。
やがて迎えた第1回公判において、袴田は起訴事実をすべて否認し無実を訴える。供述調書を調べはじめた熊本は、起訴の根拠となった袴田の自白が強要されたものではないかという疑問を抱いていく。
裁判が長期間に及び、事件から1年が過ぎたころ、警察から新たな証拠が提出され、裁判は急展開を迎える。新証拠に疑いを持つ熊本は有罪の判決をくだすことに反対するが、裁判官の多数決により袴田の有罪は決定。袴田に死刑を言い渡す判決文を書くのは、主任判事である熊本の役目であった。
判決言い渡しののち、裁判所を辞職した熊本は、袴田の無実を証明しようとひとり証拠の実証実験を重ねる。しかし、それでも熊本の苦悩が消えることはなかった……。