
嵐の夜、落雷による停電で暗闇に包まれた刑務所に警笛が響きわたった。絶対に逃げ出すことのできないはずの独房から“あの男”が脱獄したのだ。稲光の中、建物の屋上に、その男、鈴木雅之(板尾創路)の姿が浮かび上がった――。
その夜から遡ること11年。金村(國村隼)が看守として働く信州第二刑務所に鈴木が移送されてきた。無口で無表情、胸に逆さ富士の刺青を入れた鈴木は、拘置所を2度抜け出したといういわく付きの囚人であった。そして収監されてからわずか1時間、鈴木が脱獄したとの報せが刑務所内を駆け巡った。刑務所の威信にかかわる事態に総力を挙げた捜索が開始され、刑務所にほど近い線路沿いで鈴木の身柄は確保された。
なぜ、鈴木は見つかりやすい線路沿いを目指したのか? 奇妙な囚人に興味をひかれた金村は、出世の道を断り刑務所に残ることを決める。そして金村の休暇中にまたしても鈴木は脱獄、急を聞いて駆けつけた金村に捕えられるのだった。
その後も鈴木はどんな刑務所や拘置所に移されても脱獄を繰り返し、いつしか“脱獄王”の異名をとり、漫画の題材となるまでになっていた。もともと鈴木の犯した罪は微罪で刑期はとっくに終了しているはずだったが、脱走を繰り返すことによって、刑期は膨れ上がる一方だった。
やがて、戦争に向けて社会状況が緊張の色を増していく中、司法省の役人となっていた金村は、脱獄を繰り返す鈴木が2度と世間に戻ってくることのできない“監獄島”送りになることを知る。鈴木を見届けたいという想いにとらわれた金村は、鈴木の移送に同行を申し出る――。