
まだ寒さの残る4月の北海道。港に近い小さな家から、ひとりの老人(仲代達矢)が飛び出した。杖を投げ捨て、足を引きずりながら歩く老人。あとを追う少女(徳永えり)が引きとめようとしても、老人はその歩みを止めようとはしない。やがて疲れを見せる老人に、少女は飲み物を手渡す。つかの間、老人と少女の間に優しい空気が流れるが、老人は少女が添えた手を振り払うようにして、再び歩きはじめる。
その老人・忠男が、少女=孫娘の春とともにやってきたのは、兄・重男(大滝秀治)の家だった。決して折り合いのよくなかった兄に、忠男は突然「俺を養ってくれ」と切り出す。脚を悪くした元・ニシン漁師の忠男は、ひとり娘が死んでから5年、孫の春に面倒を見てもらって暮らしてきたが、その春が給食の仕事をしていた小学校が廃校になってしまった。春はこれを機会に東京に出ることを考え、忠男は自分の住みかを求めて重男を訪ねてきたのだった。
重男に同居を断られた忠男は、重男と妻の恵子(菅井きん)が抱える事情も知ることになる。そして忠男は、次に弟のもとを訪ねようとする。忠男の面倒を兄弟に見てもらうことを提案したのは春だったが、実際に兄弟を訪ねはじめた祖父の姿を見て、春は自分の言葉を後悔する。しかし、忠男は家に戻ろうという春の言葉を聞き入れようとはしない。公営の老人ホームは何百人も順番待ちで入れる見込みもない。民間の老人ホームに入るお金もない。忠男が頼れるのは、兄弟のところだけなのだ。
民宿に泊まり、電車に乗り、フェリーに乗り、忠男は春とともに、長い間会うこともなかった兄弟たちを訪ねる旅を続ける……。