2008年12月4日。押井守が初めて舞台の演出を手がける「鉄人28号」の発表会が開催されていた。会場に詰め掛けた多くの報道陣の中に、スチールカメラマンの小林言子(あきこ:奥田恵梨華)の姿もあった。壇上でコメントする押井守や出演者の姿をカメラに収めていく言子。会見が終わったあとの会場で、言子は舞台のポスターを見つめる半ズボンの少年の姿を見かけた。その姿はまるで「鉄人28号」の主人公・正太郎のようだった……。
台本の読み合わせ、立ち稽古と、舞台の準備は着々と進んでいく。言子はカメラのファインダー越しにその様子を見つめ続けていく。稽古場の外では、ビルの解体工事が進んでいた……。
12月23日、立ち稽古。24日、衣裳パレード。25日、立ち稽古。世間がクリスマスに沸き立つ時期にも舞台の稽古は続けられる。明けて2009年1月6日、鉄人の組み立て。翌1月7日、音響と照明の仕込み。1月8日、立ち稽古。実際に上演がおこなわれる劇場で進められる稽古を追う言子は、劇場の客席にあの半ズボンの少年の姿を見つける……。
仕事を終えて制作の男(水橋研二)の運転する車で帰宅する言子は、押井守がしばらく前から稽古場に姿を見せなくなっていることを知らされる。開幕を間近に控えての演出家不在にスタッフは混乱していた。男は言う「押井さん、正太郎を見たんだってさ」。その翌日から押井守は姿を現さなくなったという。
2009年1月9日、公開リハーサル。この日も押井守は姿を見せなかった。「初日前のゲネになって演出家がいないなんて」。スタッフは噂する。押井守が「鉄人を見た」と……。
28 1/2 妄想の巨人
監督:押井守
出演:奥田恵梨華 田辺桃子 須藤雅宏 水橋研二 柏原収史 舞台「鉄人28号」キャスト&スタッフ
2010年7月31日(土)よりユーロスペースにてレイトショー
2009年/カラー/16:9/ステレオ/74分
2009年、東京・大阪で上演された舞台「鉄人28号」は、『攻殻機動隊』『イノセンス』などのアニメ作品を送り出してきた監督・押井守が初めて舞台演出をつとめる作品として大きな注目を集めた。この舞台「鉄人28号」から、もうひとつの作品が生み出された。映画『28 1/2 妄想の巨人』(にじゅうはっかにぶんのいち もうそうのきょじん)である。
『28 1/2 妄想の巨人』は、舞台「鉄人28号」の製作発表会見の模様から始まる。その後もスクリーンに映し出されていくのは、稽古の様子や、舞台で使われる巨大な鉄人の制作過程といった、舞台「鉄人28号」のバックステージだ。しかし『28 1/2 妄想の巨人』は舞台「鉄人28号」のメイキングではない。押井守は『28 1/2 妄想の巨人』においてメイキングを映画として成立させることを試みている。押井守の演出が介在し、架空の登場人物が登場する『28 1/2 妄想の巨人』は、ドキュメントとフィクションが渾然一体となった不可思議な作品となっているのだ。
主人公となるスチールカメラマン・言子(あきこ)役には、押井作品では異例となるオーディションによって、映画『東京ゾンビ』ほかドラマ・CMなどでも活躍する奥田恵梨華が起用された。ほか、水橋研二、柏原収史という実力派俳優が出演。そして押井守自身も含め、舞台「鉄人28号」のスタッフ・キャストも本人として出演し、現実と虚構の垣根を揺るがしていく。
タイトルからも明らかなように、この映画は押井監督が好きな作品として挙げるフェデリコ・フェリーニ監督の『8 1/2』に捧げるオマージュでもある。なにが現実なのか、なにがフィクションなのか。大胆な手法によって作られた『28 1/2 妄想の巨人』は、観客を幻想と現実が幾重にも重なりあう迷宮へと誘っていく。
- 小林言子(あきこ):奥田恵梨華
- 幻影の正太郎:田辺桃子
- 怒れるプロデューサー:須藤雅宏
- 制作の男:水橋研二
- 言子の同棲相手:柏原収史
- 舞台「鉄人28号」キャスト&スタッフ
- 監督・脚本:押井守
- 製作:関澤新二
- プロデューサー:久保淳
- 共同プロデューサー:木下哲哉/黒田仁子
- アソシエイト・プロデューサー:才士真司
- 原案:横山光輝「鉄人28号」
- 撮影・編集:湯浅弘章
- 美術:黒川通利
- VFX:佐藤敦紀
- 音響:若林和弘
- 助監督:金子功
- >制作担当:村瀬正憲
- 音楽:川井憲次
- 特別協力:光プロダクション/梅田芸術劇場
- 制作・配給:デイズ
- 製作:ポニーキャニオン・デイズ