
都会の片隅に事務所を構えるひとりの探偵がいた。彼のもとを訪れるのは、夫の浮気を疑うカブトムシ、性転換を考えるカマキリ、行方不明の恋人を探すコオロギ……。そう、彼は昆虫専門の探偵、昆虫探偵ヨシダヨシミだ!
『昆虫探偵ヨシダヨシミ』は、講談社モーニング・モーニングツー連載の青空大地による同名コミックの映画化だ。シュールな内容で人気の原作コミックに魅了されたのが、本作で主演をつとめる哀川翔。無類の昆虫マニアである哀川は原作を読んで「ヨシダヨシミを演じられるのは俺しかいない!」と確信、映像化の企画をプロデューサーにもちかけ、映画化が実現した。
監督は俳優としての顔も持つ日本映画界の奇才・佐藤佐吉。長編監督デビュー作『東京ゾンビ』で主演をつとめるなど以前より縁が深い哀川翔の熱望する企画とあって監督を快諾。脚本も担当し、原作のシュールさを活かしつつスケールの大きなオリジナルストーリーを展開させ、アクションやスペクタクルも盛り込んだ一大娯楽作品へと仕上げた。
『Seventh Anniversary』『わたし出すわ』などの小山田サユリがヨシダヨシミの謎を知る美女をミステリアスに演じるのをはじめ、テレビでもおなじみの村野武範や、哀川翔を師と仰ぐ水元秀二郎らが共演。そして勝俣洲和や田中要次、山田広野、猫田直とユニークなキャストが昆虫や動物の声を演じる。さらにこの映画に欠かせない昆虫たちは、ほぼすべて本物の昆虫を起用。言うことを聞いてくれないため撮影に困難を極めた昆虫たちの名(?)演技は見逃せない。
哀川翔がヨシダヨシミ名義で主題歌を担当し、実に17年ぶりとなるCDリリースを果たすのも話題のひとつ。前代未聞の昆虫サスペンス・ミステリーがここに誕生した。

子供たちの遊ぶ声で賑わうのどかな公園。その一角に、樹上で交尾にいそしむカブトムシのカップルに視線を送るひとりの男がいた。男の名はヨシダヨシミ(哀川翔)。雄カブトムシの妻から浮気調査を依頼された探偵だ。
昆虫をはじめ動物と会話のできるヨシダは、5年前に起きた新宿大爆発で廃墟と化した都庁の見える街で、犬のムギ(声:勝俣州和)とインコのピータンを助手に昆虫専門の探偵社を開いている。ある日、探偵社にひとりの女性が「人に似た虫を探してほしい」と依頼してきた。ヨシダは女の描いた似顔絵を頼りに1匹のカメムシを捕えたが、女はカメムシを見せられても「まだ私のことを思い出さないの? 田中さん!」と激怒して去っていってしまった。
その数日後、行方不明のコオロギを探していたヨシダは、調査のために民家の庭に入ったところを怪しまれて警察に連行されてしまった。取調べに現われたのは、ヨシダを「田中さん」と呼んだあの依頼者の女だった。その女刑事・小名浜マリ(小山田サユリ)によると、ヨシダは5年前に新宿大爆発で行方不明となった刑事・田中だという。マリは婚約者だった田中を5年間探し続け、ようやくヨシダヨシミとして生きている田中を見つけたのだ。
釈放されたヨシダに、今度は1匹のタマムシが「田中」と呼びかけてきた。タマムシは、5年前ヨシダが自分の忠告を聞いていれば新宿大爆発は防げたと告げる。そして新宿大爆発を引き起こした“悪い虫”が今度は世界滅亡を招こうとしていると……。
自分は本当に田中なのか? 混乱する記憶に苦悩するヨシダ。やがてヨシダはある決意を固めた。世界を“悪い虫”から救うために――。