
とある刑務所の204房で、刑に服する5人の男が密かに繰り広げるバトル。それは「これまでの人生で食べた一番うまい食い物の思い出」を競う“めし自慢バトル”だった! 土山しげるの人気同名コミックを、『ブタのいた教室』『猿ロック THE MOVIE』などの前田哲監督のメガホンで映画化した『極道めし』は、“食”と“人生”を巡る異色のヒューマンコメディだ。
物語の中心となる新入り受刑者・栗原健太をドラマ「ゲゲゲの女房」の主人公の弟役で注目を集めた永岡祐が演じるのをはじめ、舞台やドラマ・映画で活躍する勝村政信、『忍たま乱太郎』などの落合モトキ、男性ダンスカンパニー“コンドルズ”のメンバーであるぎたろー、唯一無二の存在感を発揮する麿赤兒と、“めし自慢バトル”に興じる5人を演じるのは個性あふれる俳優たち。また、木村文乃、田畑智子、木野花、内田慈の女優陣が、男たちの思い出に残る女性たちを魅力的に演じる。そのほか、田中要次、木下ほうか、でんでんという名バイプレイヤーたちの軽妙な演技にも注目だ。
そして『極道めし』のもうひとつの主役と言えるのが、劇中に登場する料理の数々だ。前田監督のアイディアに基づいた「黄金めし」や「オムカレボナーラ」など、映画オリジナルのB級グルメメニューが登場する。
映画のエンディングを飾るのは、海外では「SUKIYAKI」の名で知られる不朽の名曲「上を向いて歩こう」。前田監督と以前より交流のあるウルフルズのボーカリスト・トータス松本が、この曲を選んだ監督の想いを込めてソウルフルに歌いあげる。
たとえ一流店の高級料理ではなくても、食べ物の味は人の心にかけがえのない記憶を刻み込む。大切な人の思い出とともに――。おいしくて、おかしくて、切なくて。思わずよだれと涙がこみ上げてくる、ハートフル・グルメ・ファンタジーの誕生だ。

街がクリスマスの雰囲気に染まったころ、栗原健太(永岡祐)は刑務所へと入所した。健太が入ったのは204房。同室の受刑者は、美男子だが軽薄そうな相田(落合モトキ)と、巨漢のチャンコ(ぎたろー)、強面で迫力の南(勝村政信)、そして貫禄たっぷりで房の重鎮的存在の八戸(麿赤兒)の4人だ。
刑務所初体験の健太は、刑務所の質素な食事になじめず、箸を付けようとしない。チャンコに「食べないの?」と聞かれて「こんな犬の食い物、食えるか」と答えると、たちまち「ごっつぁんです」と健太の食事はほかの4人のものに。翌日の朝も、当然のように健太の食事は4人の胃袋へと消えた。
さすがに空腹になった健太、昼間の作業にも力が入らない。ついには、作業場のカンナ屑が焼きそばにかかったカツオ節に見えて思わず口に入れてしまう始末。その日の夕食から、健太は食事を誰にも譲ることなく食べはじめた。
まだ房になじんでいない健太を横目に、ほかの4人は「今夜から始めるか」となにやら画策中。見回りの刑務官が去ったのを見計らうと「行くか」と机を動かし準備を始める。思わず身構える健太に4人が説明してくれた。4人が始めようとしていたのは、この房の恒例行事「おせち料理争奪戦」。ひとりずつがいままでの人生で一番うまかった料理について話し、ほかの者が「それ食べたい!」とのどを鳴らしたら得点。最多得点者は、おせち料理で好きな一品をほかの者から貰えるのだ。
「くだらない」と争奪戦に参加しない健太だったが、話を聞くうちに、健太の心にも母親(田畑智子)や、恋人のしおり(木村文乃)との、食べ物にまつわる記憶が蘇っていた……。