
視覚に障碍を持つ少年と少女、そして介助者の女性とその兄。山に出かけた4人が体験するある出来事は、障碍を持つこと、介助することの、各々の考え方を浮き彫りにしていく――。
『金星』は、下北沢の映画館・トリウッドと専門学校東京ビジュアルアーツの産学協同プロジェクト「トリウッドスタジオプロジェクト」の第6弾となる作品だ。監督は校内での企画募集で十数人の中から選ばれた早川嗣。映画学科をはじめ、特殊メイク学科、写真学科、ミュージシャン学科、音響学科学生、声優俳優学科、マスコミ編集学科と、在校生がそれぞれの専門分野をいかして制作から配給・宣伝まで携わるという、まさに全学が一丸となってのプロジェクトが実現している。
主人公の盲目の少年・俊を演じるのは、これまで『ブタがいた教室』『告白』などに出演し、本作が初主演となる大倉裕真。顔にあざを持つ少女・ほのか役には、『ランウェイ☆ビート』やドラマ「Q10」などの岸井ゆきの。今後の活躍も楽しみなふたりが、障碍者という難しい役柄に真摯に取り組んでみせた。そして、『愛の予感』『ヘヴンズストーリー』など海外でも高評価を得る作品に数多く出演する渡辺真起子と、舞台を中心に活躍し演出も手がける稲増文(いね・ますふみ)の実力派キャスト、中村織央と淺野道啓という期待の若手俳優が共演している。
これまでの「トリウッドスタジオプロジェクト」作品は、監督自身の体験をベースにした作品が多かった。『金星』は、早川監督個人の体験からスタートしつつも、そこから大きく広がった視点を持ったフィクションとなっている。「トリウッドスタジオプロジェクト」が、新たなステージに至ったことを感じさせる作品だ。

全盲の少年・俊(大倉裕真)は、やはり視覚に障碍を持つ少女・ほのか(岸井ゆきの)を誘ってハイキングに出かけた。同行するのは、俊の介助をしている聡子(渡辺由起子)と、聡子の兄の勇治(稲増文)。
4人を乗せた勇治の車は山へと向かう。車の中でかかるラジオは、この日、金星が地球に接近して明るく見えることを伝えていた――。
ふもとの駐車場に車を停め、俊たちは山頂を目指して山道を進む。思うように山道を歩けないことにいらだつ俊は不満を聡子にぶつけ、勇治はその様子を見つめる。そして聡子は、山を登りながらの会話の中で、顔に大きなあざのあるほのかが抱える劣等感に触れる。
やがて山頂にたどり着いた4人。勇治は俊とほのかから離れると、俊へのサポートが過剰ではないかと聡子に指摘する。「あいつはわがまますぎるよ」という勇治。
一方、俊とほのかは、偶然通りがかった大学生の大村(淺野道啓)の興味本位の行動に憤るが、目の見えないふたりにはどうすることもできず、大村はその場から立ち去っていく。
聡子と勇治も戻ってきて、山を降りて帰ろうとする4人。だが、車にトラブルが発生し、勇治は近くにいた川田(中村織央)に手助けを求める。俊とほのかは、川田と一緒にいるのが大村であることに気がついた。俊は車を降りると、大村に向かって激しい怒りの言葉を投げつける――。