
多くの人々が行きかう渋谷の街。砂織(佐久間麻由)が料理を作るダイニングバーは、そのざわめきの中にある。
バーを訪れる客のひとり・美江(田中里枝)は、仕事中からお菓子を食べてばかり。家に戻っても飲食を続けてはトイレで吐く、過食と嘔吐を繰り返していた。美江の同棲相手でろくに仕事もしていない武史(岸建太郎)は、美江になにも言うことができず、お菓子の空き袋を片付けるだけだ。
砂織の働くバーによくやってくるが、飲むだけで食事に手をつけない男・九条(上村聡)。酔いつぶれた翌朝、自宅アパートで目を覚ますと、女が台所で朝食の支度をしてくれていた。だが、九条は女を追い出すと、用意された朝食を全部捨ててしまい、自分で作った目玉焼きとパンだけの朝食を済ます。
美江の勤め先は、小中(菊池透)が経営する会社。とはいっても、社長の小中と美江ふたりだけの小さな事務所だ。会社の経営は苦しく、家に帰れば妻の咲枝(岡村多加江)から文句を言われる小中。そんな小中は、いつも昼食の弁当を美江から隠すようにして食べている。美江にそのことを指摘された小中は、子供のころからの癖だと答えるが……。
九条が店で料理を食べないことを気にしていた砂織は、よく九条と一緒に店にやって来る石田(増本庄一郎)から、九条が人前で食事をするのが苦手なのだと聞かされる。九条がひとりでバーにやって来たある夜、砂織はこっそりとカツサンドを作るとお土産として九条に手渡すのだが……。
ダイニングバーに集う人々と、その周囲の人々。それぞれの「食」の物語が綴られる。