
マンションの一室を訪ねる少年。アニメキャラクターの衣装に身を包んだ少年は、同じくアニメキャラクターの衣装を着た女とベッドで体を重ねる――。
コスプレ姿での衝撃的なラブシーンで幕を開ける『ふがいない僕は空を見た』は、第24回山本周五郎賞など数々の賞を受賞し話題を呼んだ窪美澄(くぼ・みすみ)の同名小説の映画化作だ。原作は1編ごとに語り手の異なる連作短編だが、映画は男子高校生の卓巳と主婦の里美を主人公に据え、ふたりを軸に周囲の人々の物語も描かれていく構成となっている。
卓巳を演じるのは『ソフトボーイ』で日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞した永山絢斗。アニメ好きで卓巳の前では“あんず”と名乗る里美には、映画のほかドラマや舞台でも活躍する田畑智子。実力に定評のあるふたりの俳優が、心に埋められないものを抱える男女の内面を繊細に表現。大胆なセックスシーンにも文字通り体当たりで挑んでみせた。
卓巳の母・寿美子にはベテランの原田美枝子、卓巳の親友・福田には映画出演の続く注目の若手・窪田正孝、福田のバイト先の先輩・田岡にはやはりデビュー以来出演作の続く三浦貴大、そのほか銀粉蝶、山中崇、山本浩司、田中美晴ら、共演にも充実のキャストが揃い、奥行き豊かな作品世界を生み出している。
監督は『百万円と苦虫女』などのタナダユキ。『俺たちに明日はないッス』以来4年ぶりの新作長編となる本作では、ときに残酷なほどシリアスに登場人物を赤裸々に映していく。だが、その根底には“生きること”に必死に向き合おうとする人々への限りない優しさが見える。人間の“性”そして“生”に正面から取り組んだ意欲作の誕生だ。

斉藤卓巳(永山絢斗)、高校生2年生。母とふたり暮らし。
岡本里美(田畑智子)、主婦。アニメ好きで同人活動もおこなっている。そのときに名乗る名前は“あんず”。
同じ街に住む卓巳とあんずは、ある偶然のきっかけで知り合いになる。
そしてふたりは、マンションのあんずの部屋で密かに会ってはアニメキャラクターのコスプレをしての情事を繰り返す関係になっていく……。
卓巳の母・寿美子(原田美枝子)は助産婦。自宅で営む助産院にはさまざまな人々がやって来る。人の数だけの“命の誕生”に、寿美子は携わり続ける。
卓巳の親友・福田(窪田正孝)の家庭は経済的に苦しく、コンビニでのバイト代は生活のために消えていく。バイトの先輩・田岡(三浦貴大)は福田を気にかけるが、福田は素直に向き合おうとしない。
里美は、夫の慶一郎(山中崇)との間に子供に恵まれず、不妊治療を繰り返していた。心身ともに負担の大きい治療にもかかわらず、望む結果は一向に得られない。孫の誕生を待ちこがれる義母のマチコ(銀粉蝶)との関係は、里美の心をすり減らしていた。
卓巳とあんずとの関係は、やがて寿美子や福田、慶一郎やマチコ、そして卓巳の同級生・七菜(田中美晴)、福田のバイト仲間・純子(小篠恵奈)たち、周囲の人々の毎日にも変化を与えることになる……。