
高校時代からひとりの人を想い続けているゲイのありす。学校でも家庭でも居場所のない女子高生のうさぎ。偶然のきっかけで出会ったふたりは、それぞれが想いを寄せるのが同じ人であることに気づく。それは、誰にも優しい“先生”……。
「学生による商業映画の製作」をコンセプトにした専門学校東京ビジュアルアーツと映画館・トリウッドとの共同プロジェクト「トリウッドスタジオプロジェクト」。着実に商業映画の世界に才能を送り出してきている同プロジェクトの第7弾作品が、ゲイの青年と女子高生の奇妙な関係を描いた『ふとめの国のありす』だ。
脚本・監督は松国美佳。東京造形大学・大学院を卒業後に東京ビジュアルアーツに入学したという経歴を持つ26歳だ。『ふとめの国のありす』では、違った世界に住むふたりの出会いを通して、人がなにかに「向き合う」ことの意味を真摯に描き出している。
ありすを演じるのは、ドラマ「ごくせん」シリーズなどで知られる脇知弘。軽妙な中にも哀しさや痛みをしっかりと伝える演技で、デブのゲイという役柄を巧みに演じてみせた。女子高生のうさぎには、テレビ番組「天才てれびくんMAX」レギュラー出演で注目を集めた木咲樹音(きざき・じゅね)。映画初主演となる本作では、少女の孤独と陰をしっかりと表現している。そして『硫黄島への手紙』などハリウッド作品の出演経歴も持つ坂東工が先生を演じ、作品に一層の奥行きを与えている。
ありすとうさぎと先生。交錯する3人の“想い”が行きつく先は、ちょっと切なくて、胸が痛くて。でもとても優しい。自分の気持ちをうまく表現できず苦しんだことのあるあなたに贈る物語。これは、不思議の国の話じゃない。

高校生のとき、同性に送ったラブレターをクラス中にバラされてしまった彼に、先生はただ優しい一言をかけてくれた……。それから8年、ゲイバーに勤めるありす(脇知弘)はいまでも先生(坂東工)のことを想い、先生の姿を物陰からこっそりと眺めるのを日課にしていた。
ある日、店に出る途中のありすのスクーターの前に、制服姿の少女が突然飛び出してきた。お互いにケガはなかったものの、スクーターに傷がついてしまいありすは激怒。ありすが通っていた高校の制服を着たその少女・うさぎ(木咲樹音)は、ありすに謝りもせず、口論を繰り広げた末にその場を立ち去ってしまう。
ところが、うさぎ(はありすの前にふたたび現れた。事故のときにありすが落とした携帯電話を届けに来たのだ。そしてうさぎは、ありすの携帯の待ち受け画面を見ていた。ありすがずっと想いを寄せる先生の写真を――。
うさぎも、ありすと同じように学校で先生の優しさに触れ、先生のことを想っていた。学校ではイジメに遭い、家庭でも親の愛情を感じることなく居場所のないうさぎにとって、先生を見つめることが支えになっていた。
同じ人が好きだと知り、ありすはうさぎに先生の姿を見つめる絶好のポイントを教え、ふたりは一緒に先生の姿を眺める。いつしかありすとうさぎは奇妙な関係を築きはじめていた。
好きだから先生を見ていたいありすとうさぎ。だけど、ずっと見ているから知ってしまうこともある。ある事実を前にして、ありすとうさぎは――。