ひとり電車に乗り、秋葉原へとやってきたひかり(蓮佛美沙子)。多くの人で賑わう街を歩きながら、ひかりは“あの日”の騒音や悲鳴を街の景色に重ねていた。
街を歩くひかりに、ひとりの女性が声をかけてきた。秋葉原を歩く人を撮っているというカメラマンの沙紀(中村麻美)だった。「どこから?」「よく来るの?」シャッターを切りながら尋ねてくる沙紀の質問に答えながら、ひかりは逆に尋ねる。「ここにいる人たちって、どんな顔をしてますか?」。そして、恋人はいるのかという沙紀の質問に、ひかりは答える。「秋葉が好きで、秋葉で死んじゃった」――。
ある出来事をきっかけに、ひかりは家からほとんど出ることがなくなっていた。母親(根岸季衣)はそんなひかりに優しく接し、ひかりも3年ぶりに高校時代の友人・まりあ(尾高杏奈)と会ったりと徐々に以前の生活を取り戻しはじめ、秋葉原へとやってきたのだった。
ビルの屋上で出会った青年・尾崎(柄本時生)、路上ライブで自作の曲を歌いあげるミュージシャン(Quinka,with a Yawn)、ひかりに声をかけてきたメイドカフェのスカウトマン・修(田口トモロヲ)、修の店でメイドとして働いている桃(菜葉菜)。秋葉原のあちこちを歩きながら、ひかりはさまざまな人と出会う。誰もが、それぞれに、この街で生きている――。
やがてひかりは、偶然のきっかけから佑二(小林ユウキチ)という男と出会う。そしてふたりが見つめた電器店のテレビの画面には映し出されていたのは――。
RIVER
監督:廣木隆一
出演:蓮佛美沙子 中村麻美 小林ユウキチ 田口トモロヲ ほか
2012年3月10日(土)よりユーロスペースほか全国順次ロードショー
2011年/カラー/HD/ステレオ/89分
さまざまな人々が集まる街・秋葉原。この街を流れる川がいつしか海につながっていくように、過去と現在、未来もつながっている。そして、人と人とも、つながっている――。
『RIVER』は、『余命1ヶ月の花嫁』『軽蔑』など話題作を次々と手がける監督・廣木隆一が、実際に秋葉原で起きた無差別殺傷事件をモチーフに、自ら脚本も担当して作りあげた作品だ。主人公は恋人を亡くした喪失感から立ち直れない女性・ひかり。恋人の痕跡を求めるように秋葉原を訪れたひかりと秋葉原の人々との出会いの中で“再生”への希望が描かれていく。
ひかりを演じたのは、大林宣彦監督作品『転校生 さよならあなた』に主演し注目を集めた蓮佛美沙子。共演には、根岸季衣、田口トモロヲ、中村麻美、柄本時生、尾高杏奈、菜葉菜、小林ユウキチ、小林優斗と、個性と実力を備えた俳優陣が集まった。また、音楽を担当したミュージシャン・Quinka,with a Yawnがストリートミュージシャン役で出演も果たしている。
映画の多くの部分は、秋葉原でロケを敢行。映画の冒頭近くでは街を歩くひかりの姿をカメラも移動しながらワンカットで追い続けるなど、長回しのカットの多用が印象に残る。
そして、映画のクランクイン直前に起きた東日本大震災が映画の内容に大きな影響を与えている。廣木監督は急遽、被災地で撮影をおこなうことを決意。『RIVER』は、秋葉原の事件だけでなく、震災という大きな傷からの再生をも描く作品となった。
こうして完成した『RIVER』は、約1時間半にわたってスクリーンに映し出されるものだけでなく、作品の製作過程そのものが2011年の日本の記録ともなっている。『RIVER』が映し出しているのは、まぎれもなく、2011年の「現実」だ。
- ひかり:蓮佛美沙子
- カメラマン・沙紀:中村麻美
- ひかりの母・弓子:根岸季衣
- ひかりの高校の同級生・まりあ:尾高杏奈
- メイド・桃:菜葉菜
- 尾崎:柄本時生
- ミュージシャン:Quinka, with a Yawn
- スカウトマン・修:田口トモロヲ
- 地下道の住人・佑二:小林ユウキチ
- クリス:小林優斗
- 原案・脚本・監督:廣木隆一
- 脚本:吉川菜美
- エグゼクティブ・プロデューサー:久保忠佳
- 企画:成田尚哉/平田樹彦
- プロデューサー:宮田昌広/東快彦/湊谷恭史
- 撮影:水口智之
- 照明:関輝久
- 美術・装飾:羽賀香織
- 録音:深田晃
- 編集:菊池純一
- 音楽:Quinka, with a Yawn
- 主題歌:meg「Moon River」(グレーストーン)
- 製作:ギャンビット
- 制作プロダクション:アルチンボルド
- 配給:ギャンビット/トラヴィス