まだ幼い娘の幸(土屋希乃)と、1歳の息子・蒼空(そら:土屋瑛輝)、そして夫の俊也。それが、由希子(伊澤恵美子)の家族。
明るくあたたかい家庭の、よき母親であろうとする由希子。しかし、夫はいつも帰りが遅く、帰宅しないことも多い。
夫との気持ちの溝は埋めることができず、由希子はふたりの子供とともにアパートの一室で新たな生活を始める。
自分の力だけで幸と蒼空を育てるために努力する由希子だが、現実の壁は重く彼女にのしかかっていく。
生活のために由希子が選ぶ仕事。遅くなる帰宅。荒れていく生活。男の影。
いつしか由希子とふたりの子供が暮らす部屋からは、余裕が失われていく。
ある日、由希子は部屋を出た。扉や窓を閉め切って。
閉ざされた部屋には、幸と蒼空が残された。
誰も、食事の用意をしてはくれない。
泣いても、誰もあやしてくれはしない。
幸は、まだ言葉を話すこともできない弟のために、なんとか食べ物を用意しようとする。
だが、幼い姉弟にできることは、あまりにも少ない。
誰も訪れることのない部屋の中で姉弟は……。
子宮に沈める
監督:緒方貴臣
出演:伊澤恵美子 土屋希乃 土屋瑛輝 ほか
2013年11月9日(土)より新宿K's cinemaほか全国順次公開
2013年/カラー/95分
アパートの一室で、幼いふたりの子供とともに暮らす若いシングルマザー。楽ではない生活の中で“よき母親”であろうとしていた彼女は、ある日部屋を出た。ふたりの子供を残して――。
『子宮に沈める』は、2011年公開の『終わらない青』で衝撃的なデビューを飾った映画監督・緒方貴臣の監督第3作だ。『終わらない青』で性的虐待や自傷行為を真正面から描いた緒方が、今回、映画の題材に選んだのは“育児放棄”である。
2010年、大阪のマンションの一室で、育児放棄された幼い二児が遺体で発見される事件があった。二児の母親は逮捕され、世間では母親への激しい非難の声が飛び交った。『子宮に沈める』は、この事件をもとにしている。
実際の事件をもとにしているが『子宮に沈める』は、現実の事件の再現ではない。95分の物語は、決して特殊ではない普遍的な“親子”の姿を浮きあがらせ“母性とはなにか?”という問いを投げかける。
母親を演じるのは、女優の伊澤恵美子。幼い姉弟を演じるのは、実際の姉弟である撮影当時3歳と1歳の土屋希乃と瑛輝。限定された空間での困難な撮影に挑んだ彼女たちの演技が、観る者につよく訴えかける。幼い子供の演技のみで進んでいく映画の後半は衝撃的だ。
しかし、悲痛な題材を描きつつもその映像は美しさすら感じさせる。そして、カメラの視点はどこか家族の住む部屋を覗き見ているような印象をもたらし、そこにはもどかしさが生まれていく。
頼れなかった母親。気づかなかった世間。部屋の扉を閉ざしたのは、誰なのか――。
- 伊澤恵美子
- 土屋希乃
- 土屋瑛輝
- 辰巳蒼生
- 仁科百華
- 田中稔彦
- 監督・脚本:緒方貴臣
- 撮影:堀之内崇
- 照明:月岡知和
- 録音:根本飛鳥
- 美術:渡辺麗子
- 編集:澤井祐美
- 宣伝:キリンジ
- 配給:エネサイ