初恋の人でもある幼なじみとの再会は、漠然と過ぎていた彼女の毎日を少しずつ変えていく。だけど、彼女が思いもかけずに知ることになる事実。それは、彼の好きな相手が、自分の兄だということ……。
私と、幼なじみと、兄と、兄の恋人。４人の男女が繰り広げていく小さな恋愛劇、それが『こっぱみじん』だ。
監督は『ＯＬの愛汁 ラブジュース』が国内外で高く評価された田尻裕司。脚本は以前にも田尻作品で脚本を執筆している西田直子。『こっぱみじん』は、田尻がいまおかしんじ、榎本敏郎、坂本礼の３監督とともに設立した映像制作会社“冒険王”の第一回製作作品として製作された。
主人公の20歳の美容師・楓を演じるのは『恋に至る病』『しんしんしん』など映画出演が続き女優としての評価を高める我妻三輪子。そして、楓の幼なじみの拓也には俳優として『見えないほどの遠くの空を』などに出演するほか、プロデューサー・スタッフとしても映画に携わる中村無何有（なかむら・むかう）。楓の兄・隆太には園子温監督作『恋の罪』で俳優デビューした小林竜樹。隆太の恋人・有希には『ヒミズ』をはじめ近年の園子温作品に出演するほかドラマや舞台、ＣＭでも活躍する今村美乃。４人の若手俳優が、丁寧な演技で登場人物たちの間にある感情を自然に表現してみせた。
通常の映画の照明を用いず手持ちカメラで撮影された映像は、そこにある空気を感じさせる。また劇中に音楽は一切使用されておらず、それゆえに観客を作品へと引き込んでいく。
桐生川の流れる町を舞台にした、ささやかで静かで、だけど胸に迫る物語。『こっぱみじん』は、そんな愛すべき映画だ。
小さなころから暮らす町で美容師として働いている瀬戸楓（我妻三輪子）。特に熱意があるわけではない仕事、曖昧なまま続いている恋人との関係、なんとなく続いている毎日。
ある日楓は、地元を出て働いていた小田拓也（中村無何有）が町に戻ってきたことを知る。子どものころから楓と拓也、楓の兄の隆太はいつも３人一緒にいた。幼いころに楓が抱いた“ありがちな夢”のひとつ、それは“拓ちゃんのお嫁さん”だった。
やがて楓は、町の病院で看護師として働きはじめた拓也と再会。いまは小さなレストランを営んでいる兄の隆太（小林竜樹）と隆太の恋人・野原有希（今村美乃）も加えた４人で集まり、久しぶりの再会を祝う。
いまでも拓也は、悩みを抱える楓をあたたかく包み込んでくれる存在だった。拓也との再会をきっかけに、楓の仕事に対する姿勢も変わっていく。
そして拓也が町に戻ってから間もなく、もうひとつの嬉しい知らせが楓のもとを訪れる。有希の妊娠が明らかになり、隆太が有希と家庭を持つことを決意したのだ。
だが、楓と拓也はあるきっかけから有希に隆太とは別の恋人がいることを知ってしまう。お腹の子どもの父親も隆太ではないと知り怒りを露わにする拓也。そんな拓也に有希は「いい機会だから告白すれば？」と言い放つ。有希は拓也が隆太へ寄せる気持ちに気づいていたのだ……。
拓也の想いを知り戸惑いながらも拓也を励まそうとする楓。しかし……。
