つねに刺激的な活動を見せる映画監督・山本政志が主宰する実践的映画塾“シネマ☆インパクト”は、第一線で活躍する映画監督が受講生とともに作品を作るというスタイルで、２０１２年から２０１３年にかけ15本の短編・長編を送り出した。大根仁監督『恋の渦』という異例のヒット作品を生んだシネマ☆インパクトが送る長編第２弾が、主宰者・山本政志が話題作『坊っちゃん』『さよなら渓谷』を手がけたプロデューサー・村岡伸一郎とタッグを組んで送る『水の声を聞く』である。
舞台は東京のコリアンタウン。宗教団体“真教・神の水”の若き女性教祖・ミンジョンは、支えを求める信者に巫女として言葉を与える。だがミンジョン自身も苦悩を抱えている。“真教・神の水”が拡大を続ける中でミンジョンは――。
ミンジョンを演じるのは、日本・韓国・ヨーロッパとボーダーレスに活躍する女優・玄里（ヒョンリ）。日韓英トライリンガルの彼女は、本作でも日本語と韓国語のセリフをこなし、ミンジョンのバックボーンをしっかりと表現。玄里の存在なくして『水の声を聞く』という作品は成立しなかったであろう。
そして、ミンジョンの友人であり教団を動かす美奈役に多くの映画に出演する注目の若手女優・趣里。さらに、山本政志作品常連の小田敬や、日本映画界に欠かせない村上淳ら、個性と実力を兼ね備えた俳優陣が出演。また、まだ無名の俳優たちのエネルギーあふれる演技にも注目だ。
信仰と、俗。対立するようで切り離せないふたつを描いた『水の声を聞く』は、まさに現代を投影したような作品となっている。２０１３年に短編『水の声を聞く-プロローグ-』として公開された物語が、いま全貌を見せる。
東京、コリアンタウンに近いビルの一室に、大勢の人々が集まっている。その前に座るのは“巫女”のミンジョン（玄里）。彼女のもとに集まり悩みや苦しみを吐露する人々に、ミンジョンは言葉を授ける。ミンジョンの言葉は、彼らを苦悩から救っていく――。
ミンジョンは、特別な力を持っているわけでもない。修行を積んできたわけでもない。ただ、祖母は巫女であった。いまもミンジョンの傍らで働く美奈（趣里）の誘いで小さな占いの店を開いたのがきっかけとなり、いつしかミンジョンは救済を求める多くの信者が集う宗教団体“真教・神の水”の教祖となっていた。
“真教・神の水”に力を貸す赤尾（村上淳）は、ネットを利用してミンジョンがおこなう神秘的な儀式の様子を配信して“真教・神の水”の評判を高めようとする。その効果は如実に現れ“真教・神の水”はさらに拡大を続けていく。
一方、多額の借金を抱えてヤクザの高沢（小田敬）に追われ、ミンジョンに絶縁されていたミンジョンの父・三樹夫（鎌滝秋浩）は、素性を隠して“真教・神の水”に身を寄せ、ミンジョンや美奈の側で働くようになっていく。
教祖という立場を離れれば、友人たちと酒を飲み、愚痴をこぼし、家族の問題に頭を悩ませるひとりの女性であるミンジョン。すでに教団はミンジョンの思惑を越えたビジネスとして動き出している。ミンジョンの苦悩に手を差し伸べる者はいない。
やがて、ミンジョンの中にひとつの決意が芽生えていく。
いま、ミンジョンは世界を救おうとする――。
