
短く切った髪で「犬になりたい」16歳の女子高生。彼女の名前はチョコリエッタ。チョコリエッタは映研OBの正宗先輩とバイクに乗って旅に出る。フェデリコ・フェリーニ監督の名画『道』に出てくるふたりのように……。
デビュー作『冬の河童』以降『火星のカノン』『せかいのおわり』と、海外でも高く評価される作品を送り出してきた監督・風間志織。その10年ぶりとなる新作が『チョコリエッタ』。大森真寿美の同名小説を、10年の構想期間を経て映画化した不思議な青春物語だ。
髪をベリーショートにして主人公のチョコリエッタこと知世子を演じたのは、ティーン向けファッション誌「Seventeen」モデルであり、映画『渇き。』『劇場版 零~ゼロ~』やドラマ「ごめんね青春!」などで女優としての活動も活発な森川葵。知世子と旅に出る映研の先輩・正宗役には『共喰い』『そこのみにて光輝く』などで若手実力派としての評価をたしかなものとした菅田将暉。いま注目のふたりの俳優が青春期のセンシティブな危うさを具現化してみせた。そして、市川実和子、村上淳、須藤温子、中村敦夫と、各年代の実力派俳優陣が集まり脇を固めている。
ファンタジックな描写の中に“現代の日本”への視点を感じる『チョコリエッタ』は、製作から60年を迎えたフェデリコ・フェリーニ監督の『道』に捧げられたオマージュでもある。自身の10代を「映画が助けてくれた」と語る風間監督が贈る『チョコリエッタ』は、きっと現在の少年少女にとってこれから歩む道を照らす光になるに違いない。
エンディング、森川葵自身が歌う忌野清志郎のカバー曲「JUMP」は、イノセンスな祈りのようにすべてを包み込む。

知世子が小さかったころ、母親は知世子を「チョコリエッタ」と呼んだ。知世子の家で飼っている犬の名前はジュリエッタ。ジュリエッタとチョコリエッタは、まるで兄弟みたい。
16歳になった知世子(森川葵)は、春休みに髪を短く切った。学校から帰ると出迎えてくれていたジュリエッタは、もういなくなってしまった。学校での進路志望のアンケートに、知世子は「犬になりたい」と記入する。
映画研究部に所属している知世子は、部室にあったはずの映画のDVDを探すが、目当てのDVDは卒業した先輩の私物だったようで部室には見あたらない。去年の上映会で上映したその映画は、フェデリコ・フェリーニの『道』。
知世子は『道』のDVDの持ち主である正宗先輩(菅田将暉)を訪ねた。『道』に出ている女優の名はジュリエッタ・マシーナ。愛犬だったジュリエッタの名前は、きっと母親の香世子(市川実和子)がジュリエッタ・マシーナからとったのだけど、たしかめることはできない。香世子は知世子が5歳のときに事故でこの世を去っているからだ。
ふたりで『道』のDVDを観ながら、眠りそうになっている正宗に知世子は尋ねる。「先輩、死にたいって思ったことはある?」。「殺したいと思ったことならある」と答える正宗。
映画好きで偏屈な爺様(中村敦夫)が死んでからひとりで暮らしている正宗。ジュリエッタがいない毎日を過ごす知世子。正宗は、知世子にカメラを向けるようになる。そしてふたりは、爺様の遺したバイクに乗って、撮影の旅に出る。まるで『道』のザンパーノとジェルソミーナのように……。