安達寛高(乙一)、桜井亜美、舞城王太郎。映像との関わりも多い3人の人気小説家が、映画というフィールドでひとつの作品を生み出した。3人それぞれが1本ずつメガホンをとったオムニバス『ぼくたちは上手にゆっくりできない。』だ。
乙一、中田永一、山白朝子の名前で小説を発表し、映像化された作品も多い安達寛高が監督したのは「Good Night Caffeine」。深夜の病院を舞台にした青年と少女の物語だ。乙一作品を映画化した『失はれる物語』監督の金子雅和が撮影を担当し、青年役は同作主演の中村邦晃。『クロユリ団地』でヒロインの幼いころを演じた庭野結芽葉(にわの・ゆめは)が少女を演じる。
デビュー作『イノセントワールド』などが映画化され『虹の女神』の原案・共同脚本など映像分野での活動も活発な桜井亜美が監督したのは「花火カフェ」。気持ちが離れはじめた男女の物語を、女優に加えグラビアでも活躍する小松彩夏と舞台やドラマ・映画で活躍する吉村卓也のふたりが繊細に紡ぎだしていく。
小説のほか短編アニメ『龍の歯医者』監督をつとめるなど多彩に活躍する覆面作家・舞城王太郎監督作は、会社の応接室でケガをした男と同僚の女性社員が休日のオフィスで繰り広げる奇妙な物語「BREAK」。男を演じるのはNHKEテレ「みいつけた!」のキャラクター・サボさんを演じる佐藤貴史。同僚社員は映画出演の続く若手女優・岸井ゆきのが演じている。
この作品は、舞城の発案によるクリエイティブ集団「リアルコーヒー」に「乙桜学園祭」として映画を発表してきた安達と桜井が加わるかたちで実現した。3作品はいずれも「コーヒー」を共通のモチーフとして、日常の中にある男女のひとコマを描き出す。芳しい香りを放つ「観る小説」は、きっとあなたに極上の心地よさを届けてくれる。
「Good Night Caffeine」
青年(中村邦晃)と少女(庭野結芽葉)は、真夜中の病院で出会った。少女は、お父さんのコーヒーを飲んだために眠れなくなってしまったのだという。青年は、事故にあった友達の手術が終わるのを待っている。青年は、少女が眠くなるまでの暇つぶしに付き合うことになる……。
「花火カフェ」
染谷(小松彩夏)は「話がある」と自分の部屋を訪れた宮本(吉村卓也)を、コーヒーを入れて迎える。コーヒーの香りの中、部屋に飾られた写真をきっかけに、染谷と宮本が初めてふたりで遊んだ線香花火の記憶が蘇る。染谷は、もう一度一緒に花火をしたいと宮本にせがむ……。
「BREAK」
ある日、会社の応接室で大怪我をして倒れていた黒須(佐藤貴史)。ケガもまだ癒えず、黒須を襲った犯人も見つかっていないにもかかわらず、黒須は休日出勤して仕事に取り組む。たまたま会社に来ていた同僚の濱崎(岸井ゆきの)は、黒須のためにコーヒーを入れようとする……。