
第二次世界大戦末期、日本軍が開発した「桜花(おうか)」。それは美しい名前に反し、人間が乗り込んだまま特攻するという兵器であった。この「桜花」を題材に、知られざる戦争の真実を伝える映画が『サクラ花 ~桜花最期の特攻~』だ。
主人公は、爆撃機・一式陸攻に乗り込む新米整備兵の尾崎。尾崎たちを乗せた一式陸攻は、昭和20年初夏に茨城県神之池(ごうのいけ=現在の神栖市・鹿嶋市)の基地から「桜花」を搭載して飛び立つ。映画は、ほぼ全編がこの一式陸攻の機内で進行するという意欲的な手法を用い、これまで描かれたことがないような戦場の緊迫感や、そこにある人間の感情を描き出す。
尾崎を演じるのは多くの映画やドラマに出演し俳優としての評価を高める大和田健介。そして一式陸攻の機長・穂積にはキャリアを重ね渋みを増す緒形直人。桜花の搭乗員・沖田には期待の若手・佐久間悠。そのほか、映画初出演となる落語家・林家三平や映画出演が続く若き実力派・橋本一郎、人気タレントの三瓶らが一式陸攻搭乗員役で共演するのに加え、演歌歌手の三山ひろし、映画の舞台である茨城県出身の磯山さやかとキタキマユら幅広いキャストが出演。また、名優・役所広司がナレーションをつとめている。映画の持つメッセージが多くの賛同を集めたからこそ実現した豪華なキャスティングだ。
監督は『天心』など幅広い作品を手掛ける松村克弥。さまざまな資料や実際に桜花搭載機に乗り込んだ数少ない生還者の証言をベースに、松村と『あいときぼうのまち』監督の菅乃廣、プロデューサーの亀かずおがオリジナル脚本を執筆。フィクションというかたちで兵士たちの「体験」を現在に蘇らせた。
70年前、戻ることのできなかった若者たちと日本の姿を通して、日本の「現在」を問いかける作品だ。

昭和20年初夏。茨城県にある日本海軍航空隊・神之池基地に配属された若き兵士・尾崎(大和田健介)は、格納庫で新開発の兵器・桜花の姿を見る。ロケットエンジンが搭載された桜花に驚嘆する尾崎であったが、桜花には人間が乗り込み脱出することもなく標的に特攻する機体であることを知り、言葉を失う。“鉄の棺桶”。誰かが桜花をそう呼んだ……。
間もなく、尾崎は桜花を搭載した大型爆撃機・一式陸攻に整備員として乗り込み、激戦地である沖縄へと向けて出撃することになる。一式陸攻に乗り込むのは尾崎を含めて8人。機長は神之池基地に着任してきたばかりの穂積(緒形直人)であった。
神之池基地を飛び立った一式陸攻が沖縄に着くまで約2時間半。新米の尾崎は、ともに一式陸攻に乗り組む先輩兵士たちから、軍学校で教わるのとは異なる戦場の現実を教えられる。さらに、機長の穂積が“死神”という異名で呼ばれる理由となった過去に関する噂も知っていく。
そして、それぞれの将来への夢や希望を持つ純朴な若者たちでもある兵士たちは、機上でのつかの間の平穏の中で、彼らを待つ家族や恋しい人への想いを語り合う……。
やがて、尾崎たちが乗る一式陸攻はアメリカ軍の戦闘機に発見され攻撃を受ける。必死の防戦にもかかわらず、米軍機の攻撃に兵士はひとり、またひとりと傷つき倒れていく。
機体も損傷し沖縄まで到達できるかも危ぶまれるが、穂積機長の冷酷な判断により一式陸攻は飛び続ける。桜花と、まだ17歳の桜花の搭乗員・沖田(佐久間悠)を乗せて……。