自主映画『レイズライン』で数々の賞を受賞し、『自殺マニュアル』で商業作品デビューした福谷修監督。『グローウィン グローウィン』などの作品を手掛けるほか、俳優としても活躍している堀江慶監督。『自殺マニュアル』では監督と俳優として、そして来年公開の『渋谷怪談』『渋谷怪談2』では脚本家と監督として作品作りに携わったおふたりにお話をうかがいました。
写真:堀江慶監督(左)、福谷修監督(右)
―― 福谷監督と堀江さんがお知り合いになったきっかけは?
堀江:ほんとに偶然なんですけど、2002年に岩手県で“みちのく国際ミステリー映画祭”というのがありまして、ぼくはそこに招待されたんですけど、そのときに福谷さんもいらしていたんです。
福谷:堀江さんは『グローウィン グローウィン』で新人監督奨励賞にノミネートされていて、ぼくは自主映画で撮った『レイズライン』という作品がでオフシアター部門でノミネートされていまして。
堀江:それで福谷さんは見事にグランプリを勝ち獲ってですね、ぼくの出た新人監督奨励賞は4作品しかないのに「該当作なし」って(笑)。
福谷:そのときにお会いしていて、そのあとにぼくが脚本を書いた『渋谷怪談』『渋谷怪談2』で堀江さんが監督をすることになったんです。
―― 『自殺マニュアル』に堀江さんが出演することになったのはどういう経緯だったんでしょう?
堀江:ぼくが「出してくださいよ」って言ったんですよね。
福谷:ありがたい話です(笑)。ただ、『渋谷怪談』の監督が堀江さんに決まったときに、『自殺マニュアル』にも出て欲しいなっていうのは個人的に思っていたんですよ。でも『自殺マニュアル』は急に決まった話だったので、準備期間も短かったし、無理だろうと思ったので、ぼくからはお願いしなかったんですよ。そしたら堀江さんのほうから連絡が入ったので、ありがたい話なので、そこで脚本を直して、ということですね。
堀江:福谷さんが撮るならというので、内容を聞く前に「出たい」って言って、もう役がなかったんですけど(笑)、刑事役があったので、それをふくらませてくれて。
福谷:最初はあまり警察が関わらない話だったんですよ。ぼくは限定された空間での話が好きなので、刑事とか警察を出すとややこしくなるなと思ったので出したくなかったんですけど、堀江さんに出てもらうならやっぱり刑事だなと思って(笑)。結果的に作品が広がってよかったと思います。
―― 堀江さんは刑事という役柄を演じられていかがでしたか?
堀江:あの役って難しいんですけど、若くて、刑事として現場に行っているから、それなりに出世株で、現場を仕切っている奴だと思ったんです。だから、慣れてる感とか、慣れてるのも把握しきっていないダサさというか、やさぐれている感じを出したいなと思って。そういうのが面白いかなって、勝手に考えてやってましたね。
福谷:堀江さんなりに自分で考えてくださいという感じだったんで、その辺はバッチリだったと思いますね。
―― 堀江さんは脚本を読まれて、『自殺マニュアル』という作品全体についてはどうお感じになりました?
福谷:正直にどうぞ(笑)。
堀江:ぶっちゃけ、ほんとに「暗いな」って印象を受けて(笑)。ただ、リアルな世界っていうのはこういうことだと思うんですよ。ぼくも1作目(『グローウィン グローウィン』)で自殺を扱っているんですけど、それはただモチーフに使っただけだったんですよ。『自殺マニュアル』は、もっとリアルに突き詰めて、今の等身大の若い子を、ある意味突き放して描いていたから、ほんとに自殺したいと思っている人が観たらどうなっちゃうのかなっていう怖さもありましたね。
福谷:居心地のいい映画じゃないので、観客の受けは狙っていないっていうか、考えて欲しいっていうところがあったんですよ。今は観客受けの良い、居心地のいい映画がいっぱいあるんで、たまにはこういうのもいいんじゃないかって(笑)。徹底的に突き放す感じなので、堀江さんの芝居とか逆に救いになっているんじゃないかな。堀江さんの芝居はリアリティよりは若干ドラマっぽく撮っているんですよね。ゲスト出演だから、ある種リラックスして観てもらいたいシーンだし、堀江さんのシーンをオープニングに持ってきたのは、普通の映画っぽく観て欲しいっていうところがあったんです。
堀江:リッキー役の中村(優子)さんとか、女子高生をやった前田綾花ちゃんとか、もちろん主演の水橋(研二)くんもそうだけど、ほんとに芝居がリアルで、抑え目で、暗くて、ビビりますね。特にあんな芝居する水橋くんは今まで見たことなかったし。
福谷:だから、この映画の中で一番、劇映画っぽいのは刑事のシーンなんですよね。あとはひたすらドキュメントタッチですから。ほんとに出演シーンは少なかったんですけど、オープニングの、映画の方向性を決める重要なところなんで、そこに堀江さんにああいう形で華を添えていただいて、非常にありがたかったです。
―― では『渋谷怪談』『渋谷怪談2』についてもお聞きしたいんですけど、こちらは堀江さんが監督に決まる前に、福谷さんが脚本を書かれていたんですよね。
福谷:原案はプロデューサーの柴田一成なんです。それで、ぼくと柴田が話をして、彼のイメージとかやりたい方向を、ぼくがある種職人的に脚本にしたという部分が結構あります。パート1は特にそれが強いですね。パート2に関しては、ぼくのテイストが入っているところも結構あって、堀北真希さんが演じる主人公と『自殺マニュアル』で前田綾花さんが演じたななみのキャラクターは、若干リンクしているところもあったりするんですけど、全体的にはエンターテイメントです。柴田と話していたのも、ほんとに『リング』『呪怨』に続く、新しいエンターテイメントの心霊ホラーを目指したいということですね。
堀江:ぼくもエンターテイメントのつもりで、とにかく飽きさせないっていうことと、とにかく何分かに1回はショックを起こすってことを心がけて撮りました。脚本も次から次へと何かが起きるようになっていましたから。それは今までやったことのない手法なので、プロの仕事で勉強になったと言ったら良くないんだけど、ほんとに勉強になりました。それにプラスして、芝居の細かさっていうのはぼくの好きなところだから、それを徹底してやりましたね。出演者の中にはあんまり芝居の経験のない子もいたし、そういう若い子の話を面白くしたいっていうのが結構好きなんでね、ディティールを突き詰めてやったりして、楽しい作業でしたよね。
―― 堀江さんはホラーの依頼が来たときにはどう思われました?
堀江:最初「化け物の企画だ」って聞いて「それはわかんねえな」と(笑)。でも、脚本を読んだら全然違っていて「ああ、こういう感じか」と思いましたね。一番いいなと思ったのは、『スクリーム』的な部分があるんですよ。合コンとかが出てくるんですけど、普通の映画じゃ合コンを持ってくるなんて、言い方は悪いけど、ダサくてできないじゃないですか。だけど、世の中ってダサくても普通に合コンやっているし。そういう合コンとかしてる「そんなもんだろ、お前ら」っていうような若者がどんどん死んでいくっていうのは、とても気持ちいいなって(笑)。
福谷:陰湿じゃないってことですよね。カラッとしている。
堀江:そのカラッと感が好きだったんですよ。「これだったら俺はできるな」って思って。「そんな奴らも一生懸命生きているんだよ」ってところも描けるし、ホラーでもあるし。そんな印象を受けましたね。
―― 堀江さんの中には、ホラーという要素ってありましたか?
堀江:この前に『呪怨2』と『怪談新耳袋』をやっていたのが大きかったですよね。それがなかったらほんとに全然なかったですけど。『呪怨2』では俳優という立場ですけど、『怪談新耳袋』で初めて作るのをやってみて、どう怖がらせるかということをかなり悩んで、周りの人たちと話し合ってやった経緯があったから、そこでひとつ下地はできていましたね。
―― 以前、『グローウィン グローウィン』の中で地方都市の怖さを描こうとしたという話をされていたと思うんですけど、そういう心霊とは違った怖さというのは『渋谷怪談』には出てきますか?
堀江:そこはちょっとありますね。それで脚本にないセリフを加えたところとかあるんです。今回、人物のキャラクターは薄くていいと思ったんですよ。それぞれにキャラ付けしてみても、結局それってありきたりなキャラ付けなわけで、それを一くくりの“若者たち”としてとらえて、ずっと押し進めようと思ったんでね。脚本の狙いはそこにあったし。主人公だけは違うけど、あとの若者たちが、どんどん人が死んでいく中で、初めて死について考え始めて「なんで死んじゃうんだろう」とか「なんで昨日までいた友達が突然いなくなっちゃうんだろう」とか、ただ襲われて怖いだけではなく、それプラス“昨日まであったものが突然なくなる”っていう怖さですよね。それは哀しさも含めてなんですけど、そういうところは、ぼくのやりたいこととリンクしているから、必要ないのかも知れないけど、出しちゃいましたね。
福谷:脚本を書いている最中に堀江さんに監督が決まったんですよね。それで、堀江さんの良さとして、さっき言われた“地方都市の怖さ”っていうのは確かにあって、それは『グローウィン グローウィン』でも良くわかっていたんで、堀江さんが渋谷をどう撮るだろうかというので、意図的に風景を脚本にいろいろと入れたところがあったんですよ。それも効果的になっていたと思うし。
堀江:ほんとに、ベタって言うと失礼だけど、カラオケボックスとか、自分だったら絶対入れなかったものが脚本の中に入っているので、これは新たなチャレンジをさせてもらってるなって思ったんですよね。それはちゃんと意図的に、狙いで書かれていたんで。
福谷:だから、薄いキャラっていうのはそのとおりで、あえてその辺を掘り下げずに、都市の中でそういう恐怖感がどう出せるかって。都市伝説がキーワードなんで、そういう渋谷の風景っていうのは、狙い通りというか、いい感じになっていたんで、面白いなと思いましたね。
―― 観客の方たちには『渋谷怪談』『渋谷怪談2』をどう観てもらいたいですか?
福谷:作品はもう監督のものなんですよね。ぼくとしては、あくまでも職人に徹してプロデューサーのイメージを脚本にして、堀江さんもいい意味で職人に徹してエンターテイメントな作品として仕上げられて、作品として非常に面白いので、ぜひ観ていただきたいです。
堀江:とにかく、今回は普通の人にキャーキャー騒いで観て欲しいんですよね。女子高生とか女子大生の方たちに「シネ・ラ・セットで『渋谷怪談』ってやっているんだって、行こうよ行こうよ!」みたいなノリで観に来て、怖かったって思ってくれればいいし、その中で、たとえば「隣で観ているこの娘が死んだら私はどう思うかな」とかね、ピリッとした毒を、楽しむ中で感じてもらえたらいいなって思います。
(10月17日、渋谷シネ・ラ・セットにて)
『自殺マニュアル』は10月24日まで渋谷シネ・ラ・セットにてレイトショー。
『渋谷怪談』『渋谷怪談2』は、2004年正月第2弾として渋谷シネ・ラ・セットで公開予定です。
|