静岡県浜松市を舞台に、学校の吹奏楽部で音楽に向きあう少年少女たちの姿を描いた『楽隊のうさぎ』が12月14日に初日を迎え、渋谷ユーロスペースで出演者の宮﨑将さんと山田真歩さん、鈴木卓爾監督と磯田健一郎音楽監督が舞台あいさつをおこないました。
中沢けいさんの同名小説を映画化した『楽隊のうさぎ』は、奇妙な“うさぎ”に誘われるように吹奏楽部に入部した中学生・克久を中心に、克久の入学から2年生の演奏会までが描かれていきます。
中学生役にはオーディションで選ばれた46人の子供たちを起用し、劇中での時間経過にあわせるように足掛け2年の撮影をおこなっており、鈴木監督は「長い時間かけてひとつの吹奏楽部を作り、それをぼくたちがどう見つめることができるか、そこからどういう響きが生まれるか、そういう壮大な実験のような壮大な映画作りになりました。はじめはそこまですごいことになるとはわかっていなかったと思いますが、その結果、ほんとにふたつとない特別な映画ができたと思っています」とあいさつ。
吹奏楽部の顧問・勉(べん)ちゃんこと森勉先生を演じた宮﨑さんは「意識していたわけではないと思いますけど(生徒役の)みんなと一緒にご飯を食べたり、カメラが回っていないときに一緒にいる時間が長かったと思います。生徒がいっぱいいるので、先生として受け入れてもらえるかという不安はあったんですけど、みんな仲良く話しかけてくれたりして、自分も楽しくできて、みんなもきっと楽しんでくれたんじゃないかなと思っています」と撮影を振り返りました。
主人公・克久の入部のきっかけとなる不思議な“うさぎ”を演じた山田さんは「(うさぎは)みんなのイメージの中のものを現実にするというので、監督もイラストを描きましたし、衣裳はどうするのかとか、みんなで悩みましたね。それは撮影に入ってからも悩んだところです」と、劇中での“うさぎ像”がどう作られていったかを説明し「とにかく動物の役が初めてだったので、多摩動物公園の年間パスを買って通って、いろんな動物の真似をしました(笑)」と役作りにちょっと変わった努力があったことを明かしました。
原作者・中沢けいさんも「すごくいい映画」と絶賛 『楽隊のうさぎ』初日舞台あいさつ
舞台あいさつをおこなった鈴木卓爾監督、宮﨑将さん、山田真歩さん、磯田健一郎音楽監督(左より)
吹奏楽部顧問・森勉役の宮﨑将さん
“うさぎ”を演じた山田真歩さん
音楽監督の磯田健一郎さん
本作では、キャストが楽器の練習を積んで撮影に臨んでおり、演奏シーンで使用されているのはすべて撮影現場でキャストが実際に演奏した音。音楽監督をつとめた磯田さんは「この映画の場合は、音楽の練習は映画を作るのとイコールなんですね。最初はみんなアマチュアなんで映画に出るというのがどういうことかわからなくてギクシャクしているわけですけど、ひとりひとりの個性が自然にそこにあるようになるためには、ほんとの部活の雰囲気、みんなの間の人間関係ができる時間が必要で、それをやっていく中で、みんながいきいきとした演奏を始めてくれたのかなというのが正直な感想ですね」と、演奏を指導しての感想を述べ、映画のために書き下ろしたオリジナル曲について「ぼくがある意味で(顧問の)勉ちゃんのポジションにいて練習するわけですけど、勉ちゃんの気持ちを伝えていくのはなにかと考えると、クラシックのアレンジをするとかではなくて、ぼくがひとりひとりのことを考えて曲を書くということでしかないなと思って。それをやることによって、音楽の練習と映画のリハーサルと実際の演奏会の本番とが、垣根のない気持ちでずっと入っていけるだろうというのが強くありました」と、曲を書いた心境を振り返りました。
鈴木卓爾監督
原作者・中沢けいさんの言葉に笑顔を見せる鈴木監督と宮﨑さん
初回の上映には原作者の中沢けいさんも来場しており、中沢さんは司会者の呼びかけに応じて「すごくいい映画を作っていただいたと思っています。最初に鈴木監督に会ってお話をさせていただいたときに、すごく“わかってる”という感じがして、これは安心だと思っていました。私はこの映画を作っていくひとつひとつ、それからできたあと、いろいろな方に観ていただいた感想、ひとつひとつを楽しませていただいております」と、客席からスタッフ・キャスト、ご覧になった方々に感謝の言葉を。
そして鈴木監督は「客観的に見てもすごいい映画になったと思っていて、すごく力のある映画で、その力というのはきっと日本中、世界中、地球上どんな街でも、みんなのやった時間というのが伝わって、それがまたなにかを動かす力になるかもしれないなって、すごく夢を見ることができる映画になったような気がしています。ほんとに、みんなの情熱がというか“なにか”がひしめいていますので、最後まで楽しんで観てください」と舞台あいさつを締めくくりました。
音楽の町・浜松より生まれた『楽隊のうさぎ』は、12月14日(土)より、渋谷ユーロスペース、新宿武蔵野館、浜松シネマイーラ、静岡シネ・ギャラリーほか、全国順次ロードショーされます。