観客より送られた花束を手にした登壇者。左より、『ニート・オブ・ザ・デッド』の南木宙子(なんき・みちこ)さん、筒井真理子さん、木下ほうかさん。『遺言』の木部公亮監督、中島菜穂さん、小柳基さん
独特の視点でゾンビを描いた2本の短編『ニート・オブ・ザ・デッド』『遺言』が6月13日にユーロスペースで初日を迎え、
両作品のキャストとスタッフが舞台あいさつをおこないました。『ニート・オブ・ザ・デッド』の南木顕生(なんき・あきお)監督は映画完成後の2014年に病気のため急逝しており、夫人であり製作者である南木宙子さんが主演の筒井真理子さんと木下ほうかさんとともに登壇。『遺言』からは主演の中島菜穂さんと共演の小柳基さん、木部公亮監督が登壇しました。
脚本家として永いキャリアを持つ南木監督の初監督作にして遺作となった『ニート・オブ・ザ・デッド』は、人々のゾンビ化が始まった世界を舞台に、引きこもりの息子がゾンビとなった一家を、母親を筒井さん、父親を木下さんが演じて描く「ゾンビホームドラマ」。
『ニート・オブ・ザ・デッド』撮影後にも監督と会う機会があったという筒井さんは「この作品を作ったことがとても刺激的だったということで“こんな作品もやりたい”とか“筒井さんに一人芝居を書きたいんだ”っておっしゃってくださったりとか、ほんとにこれからが楽しみだったんですけど」と、監督の早逝を惜しみながらあいさつ。
監督と26年前からの付き合いだったという木下さんは「(監督は)とにかく思ったことをすぐ口にするから、撮影中もリハーサルのときもトラブルが絶えませんでした(笑)」と、監督のこだわりの強さをうかがわせ「我々(筒井さんと木下さん)は彼の作品とかで“できる人”とわかってましたからね。仲裁したり、(監督の)味方になってやっていました」と振り返りました。
南木宙子さんは、レイトショーにもかかわらず立ち見も出る盛況に「感謝の気持でいっぱいです」とあいさつし「ありとあらゆる映画関係の友人の力を借りて映画を作ることができて、ほんとに主人は幸せものだと思っております。たぶん今日ここに降りてきて、みなさんと映画を見守ってくれていると思います」と、劇場公開を迎えての心境を語りました。
現在28歳の新鋭・木部監督がメガホンをとり、イギリスやドイツの映画祭でも上映されている『遺言』は、ゾンビとなった夫をひそかにかくまう妻を主人公にした物語。
木部監督は「ゾンビのパンデミックが収束したあとの世界を描いたら面白そうだな考えて書いた話です」と発想のきっかけを明かし「小さいころから“こういう日本映画が観たいな”というのがありまして、いままでの日本映画とはちょっと違う新しい表現を目指しているんですけど、そういう方向性が見ていただけると思います」と作品について語りました。
主演をつとめた中島さんは「私はホラーとかゾンビとかはあまり得意なほうではないんですけど、監督が撮る作品の映像とかゾンビにたとえて現代社会の問題ですとかを表現しているのに惹かれて参加させていただきたいと思いました。私は“こういう状況に迫られたときに自分だったらどう行動して考えてなにを感じるか”と考えながら参加させていただいたんですけど、ご覧になるお客様もそれぞれに状況とかがあると思うので、観ていただく方によってそれぞれのストーリーがあるのではと思っています」と主演をつとめての想いをコメント。
共演の小柳さんも「ゾンビというのが2作品とも共通してあるんですけど、それをほかの言葉に置き換えたらどうなるか。人間の弱点とかコンプレックスとかいろいろとあるんじゃないかと思うんですけど、そういうことと置き換えてみると、ゾンビというかたちを借りたほうが映画としてリアリティがあるなって感じがしてすごく面白かったです。両作品ともゾンビを通して、逆に日常に根ざしたリアリティのある作品だと思うので、楽しんで観てもらえればいいなと思います」とメッセージを送りました。
舞台あいさつの最後には、筒井さんが「手作りのこの小さな作品を、みなさんにご覧になっていただいて、ここからまた大きく育てていただけたら嬉しいと思います」と、作品への応援を呼びかけました。
独立して制作された作品ながら、共通して「身近な人への想い」をゾンビを通して描いている『ニート・オブ・ザ・デッド』『遺言』は、6月13日(土)よりユーロスペースにてレイトショー上映中。
上映期間中には映画にゆかりのあるゲストが出演してのトークイベントも開催されます。