俳優・升毅さんが永いキャリアで初の映画主演をつとめ、28年ぶりの映画復帰となる高橋洋子さんが妻を演じる『八重子のハミング』(5月6日公開)のプレミア試写会が4月19日に山野ホールで開催され、升さん、高橋さんと佐々部清監督、共演の文音さん、中村優一さんが舞台あいさつをおこないました。
『八重子のハミング』は、陽信孝(みなみ・のぶたか)さんが自身の体験をもとに綴った同名著書の映画化で、4度にわたるがん手術を受けた夫・石崎誠吾と、若年性アルツハイマーを発症した妻・八重子の物語。誠吾が八重子を介護する12年間を通して夫婦の愛と家族の絆が描かれていきます。
芸能生活42年にして初主演で主人公の石崎誠吾を演じた升毅さんは、主演の依頼があったときの心境を「即答で“ぜひやらせてください”とお答えしました。もちろん映画で主演をやったことがなかったという個人的な“やったぜい!”という部分と、作品のテーマだったりとか内容の重さ、深さ、そういう作品に携われるという喜びとで、すぐにお答えさせていただきました」と語るとともに、実在の人物をモデルとした役に「たくさんの想いが押し寄せてきて」役作りに苦心し、プランがないまま撮影初日を迎えたと告白。「監督の“よーい、スタート!”で始まる直前まで不安で不安でしょうがなかったんですけど、始まった瞬間にそこに自分じゃなく石崎誠吾がいた感じで、目の前には八重子さんがいた感じで、そこから先は自然にこの作品に入っていけたんです」と撮影初日を回想し「(監督の)“OK!”って出たら、この感じでずっといられればいいんだと。そんなちょっとホッとした気持ちになったのを思い出します。なかなか本当に大変な役でした」と振り返りました。
また、升さんは、妻・八重子役の高橋洋子さんとの共演について「(監督から)“撮影の期間中だけでいいから洋子さんの八重子さんをずっと好きでいてください”と。その前に洋子さんとお会いしていて、とてもチャーミングな方ですでに好きになっていたので、その部分は軽くクリアいたしました」と、笑顔で語りました。
近年は作家として活動が主だった八重子役の高橋洋子さんは、佐々部監督からの出演の依頼に「どうしてこんな難しい役を何十年ぶり(に映画出演)の私に振るの? でも映画をやってみたいという気持ちは20何年ありました」と「嬉しいような、重いような」気持ちだったと明かし、若年性アルツハイマーで周囲とコミュニケーションを取れなくなるという難役に「撮影の間ちょっと孤独で、終わったときもちょっとモヤモヤして撮影が終わりましたけど、先行ロードショーで山口の萩や(撮影)当時ロケしたところで去年の秋にやってまいりました。そしたらお客さんがですね、“洋子さん、あんな感じでしたようちの母!”“洋子さん、感じがピッタリでしたよ!”とお客さんに言われて、監督でもありません、升さんでもありません。“よかったね”というのをお客さんに言われて、やっと自信が持てて、八重子を演じることができたかな」「すごく不安な日々でしたけど、去年の山口の人たち、萩の人たちに励まされてここに立つことができました」と、ロケ地であり映画の舞台である山口の方々に感謝を示しました。
『八重子のハミング』は佐々部清監督が8年前から映画化を目指し映画会社やテレビ局に企画を出しつつも実現に至らず、監督自身がプロデューサーとして資金集めからスタートして映画化を実現させた作品。佐々部監督は「ちょうど2年前に少し認知症が進んでいた母が亡くなったのが大きなきっかけで、これは意地でも作って世に出したい。そしてシニア層が中心に観られる映画を作りたいなと思って、それもあってこういう映画を作ってみました」と作品製作の経緯を説明し「ぼくは“自主映画”ってずっと言ってきたんですが、スタッフたちが“自主映画”と呼ばないでくれというので、自主的に作った“自主的映画”と呼んでいます。だから自主的映画『八重子のハミング』を覚えていただければと思います」と呼びかけました。